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レングストン家のエーレやララメンテ家のコルティナが並外れた剣の才能を持ちつつも、その一方で小動物の様に可愛かったり、思わず一言突っ込まずにはおれない程ふわふわしていたりしていて、そこから気安く親しまれるのに対し、マントノン家のシェルシェはその手の気安さを感じさせる資質をあまり持っていない。
よく「ふふふ」と微笑んでいて物腰も柔らかい美少女であるが、すぐに人はその裏にある恐ろしい何かに気付いてしまい、ある一定以上に近づくとヤバい、と引いてしまうのである。
だが、祖父クペにとって孫娘はいつまで経っても小さい頃の孫娘であり、今日も書斎でシェルシェと今年の大会について話をしていても、幼い天使だった頃のイメージが完全には抜けきらない。
「終わってみれば、全てコルティナの掌の上で踊らされていた様なものです。優勝はミノンが二回、エーレが二回、コルティナとその教え子とで二回、三家が平等に栄誉を分かち合う格好となりました」
そのシェルシェは、ララメンテ家の中学生の部の大会でマントノン家の精鋭があっさり敗れた事より、それを実現させたコルティナの手腕に感服している様子である。
「しかも、ミノン、エーレの三冠王手によって、自家の大会を大いに盛り上げて興行利益もきっちり確保、か。もっともお前が出場していたら、こうも絵に描いた様に上手くは行かなかっただろうが」
「どうでしょう。エーレもコルティナもこの一年で格段に強くなっていますし。私が現役だったとしても、去年の様に上手く行くとは限りません」
「しかし、お前もエーレもコルティナも大きくなったものだ。ウチの庭を三人でよちよちと歩いていた頃がまるでついこの間の事の様に思える」
うっとりと回想モードに突入しかけるおじいちゃま。
「ふふふ、それが今では、それぞれがエディリア剣術界の一端を担っているのですからね」
「まだ中学生になったばかりの子供に担わせるのもどうかと思うが、剣術道場も人気商売である以上、スター的存在に頼るのは致し方ない。ともあれ今回の結果を受けて、三家でそれぞれ入門希望者が増加する事はほぼ間違いないな」
「ええ。ですが離脱派の立ち上げた新流派は、この恩恵を受ける事はほとんどないでしょう。今年の小中学生の大会で盛り上がったのは、マントノン家、レングストン家、ララメンテ家であって、彼らではないのですから」
そう言って、シェルシェは妖しく微笑んで、
「案外、彼らは予想より早く息絶えるかもしれません」
と冷淡に言い放つ。
天使だった頃のイメージが強いだけに、孫娘の現在の悪魔振りとのギャップに戸惑う事も多いおじいちゃまだった。