◆14◆
「おやおや、パティは随分おとなしい子だな。きっと、生まれながらの淑女なんだろう」
腕の中ですやすや眠ってしまったパティを見ながら、祖父バカが止まらないクぺ。
まさか、淑女は淑女でも変態という名の淑女に育つとは、夢にも思わなかったに違いない。
四歳のシェルシェ、二歳のミノン、生まれたてのパティと、三人の可愛い盛りの孫娘を見るにつけ、蕩けきってしまうクぺであったが、
「だが、エフォールが立ち直れない内は、まだ内戦は終わっておらん」
市街戦に巻き込まれて瀕死の重傷を負い、ようやく最近になって退院した次男エフォールの事を思うと、暗澹たる気持ちになるのだった。
エフォールは一命を取り留めたものの、右足の膝から下を失ってしまい、
「これまで積み上げて来た剣の修練が、全て無になってしまった」
と、入院中はずっと放心状態であり、退院して自宅に戻ってからも、一日中部屋に閉じこもり、何もしない日々を過ごしていた。
「私の様なボンクラと違って、エフォールはひたすら努力してマントノン家を代表する剣術家にまでなった程の男だから、今回も頑張って立ち直れると思うけど」
弟の近況を聞き、心配になった兄スピエレは、内戦の後始末で多忙を極める中、時間を作って見舞いに行く事を決めた。
首都エディロの近郊都市ジュヌーの閑静な高級住宅街にある、エフォールの家を訪れたスピエレは、
「もう、どうしていいか分かりません」
と涙ながらに訴える、弟の妻レジュルタを見て、事態は予想以上に深刻であると思い知らされ、
「ともかく、会ってみます。弟はどこに?」
と尋ね、案内された書斎の前にやって来た。
ドアをノックしたが、反応がない。
さらに強くノックし、
「おーい、エフォール。いるんだろ? 開けてくれ、スピエレだ。見舞いに来たんだ」
と声を掛けると、中から、断続的な足音と杖を突く音がかすかに聞こえ、やがて、
「兄さんか?」
と、ドア越しに弱々しい声がした。
「ああ、俺だ」
ロックを解除する音に続き、ようやくドアが開く。
そこには、衣服はだらしなく乱れ、髪はぼさぼさ髭はぼうぼう、目に生気がなく、全体的にホームレス感漂う男が、両脇に挟んだ松葉杖にもたれる様にして立っていた。
もちろん、どこかのホームレスが迷い込んだ訳ではなく、弟エフォールの変わり果てた姿である。