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初めは数の上で圧倒している様に見えたララメンテ家も、怒涛の勢いで勝ち進むエーレの前に次々と姿を消して行き、気が付けば生き残りはたった一人となっていた。
もちろんトーナメント方式なので全員エーレが倒した訳ではないが、試合の経過をずっと見ている観客からすれば、何となく一騎の騎馬武者が大軍勢を蹴散らしたかの如き錯覚に陥ってしまう。
その騎馬武者が今、本陣で待ち構える敵の総大将に迫っている。
映画だったら緊迫感溢れるシーンとして描かれるはずだが、その総大将たるや、見るからにふわふわなお嬢様なので、どう撮っても緊迫感のきの字も出ず、監督も弱り果てた事だろう。
だが、相対するエーレも会場を埋め尽くす観客も、このふわふわなお嬢様が、そんじょそこらの緊迫感を溢れさせている総大将より遥かに手強い相手だと知っていた。猛毒を持つヘビは案外可愛い表情をしているものである。
今年これまでの二大会では、エーレがコルティナに二勝しているが、そこはこのコルティナの事、「アウェイの二大会を捨ててホームで刺す」位の事を考えていても不思議ではない。むしろ絶対考えている。
エーレとてそれは百も承知であり、二勝は有利の証ではなく、二度も手の内を晒した不利と割り切り、決してコルティナを侮ったりはしていない。その表情はきりりと引き締まり、ちっちゃいながらも家を守ろうとする小型犬の可愛さに通じるものがある。
ある意味、三大会の中でこの決勝戦こそが、エーレ対コルティナの真の勝負とも言えた。
いよいよ試合直前。ちっちゃくても試合に臨めば大きな存在感を示すエーレと、ふわふわでも試合に臨めばふわふわなまま敵を死に至らしめるコルティナが、試合場で向かい合う。
レングストン家が三冠を達成するか、ララメンテ家が阻止するか。
観客が固唾を呑んで見守る中、ついに試合が開始された。