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ララメンテ家の剣術全国大会中学生の部には、マントノン家の道場生も何人か出場する予定だが、
「もうコルティナによって全員対策済みでしょうね。先の二大会でほぼ手の内を晒してしまった様なものですから」
と、シェルシェは既に悟っている。
「ララメンテ家の令嬢も、とんでもない魔物に育ったものだ。まだ小さい頃は、無邪気にお前とよく遊んでいたものだが」
剣術大会はさておき、孫娘が天使だった頃の回想モードに入りたがる祖父クぺ。
「ふふふ、その頃から既に魔物の片鱗はありましたよ。大人達から見れば、ただのふわふわした可愛い女の子にしか見えなかったでしょうけれど」
「ああ、コルティナもそうだが、あの頃のお前は可愛かった。いや、今可愛くなくなったと言う訳ではないが」
「人はいつまでも可愛いままでいる訳にはいきません。年相応の成長がなければ、不自然ですし」
「お前は実年齢以上に成長してしまった感があるがな。いや、させてしまったのかもしれない」
「マントノン家の当主としては、まだまだ実年齢以上に成長しなくてはいけません。もちろん剣士としてもです」
「やはり、お前も大会に出場したかったか」
シェルシェがその笑顔に寂しそうな影を落としたのを、クぺは見逃さなかった。
「ふふふ、出場したくないと言えば嘘になりますね。特にこれまでの試合をずっと見せられた後では」
「無理もない。コルティナもエーレも、この一年で格段に剣の腕を上げた」
「ええ、その二人はかなり先に進んでいます。試合の度に成長し続けていると言ってもいいでしょう」
「そしてお前は当主という不自由な立場上、もう大会には出られない。一人だけ置き去りにされた様な気分にもなろう」
「ふふふ、いっそ覆面を被って出場してみましょうか。その手のイタズラが好きなコルティナの事ですから、案外見て見ぬ振りをしてくれるかもしれませんよ」
「それ以前に、そんな怪しげな選手がいるマントノン家の品格が、世間から疑われる事は確実だが」
「冗談です。マントノン家の当主が銀行強盗と間違われては、流石に格好が付きません」
シェルシェは軽く笑って、
「大人しく、あの二人がどれだけ成長したかを確認するだけに留めます」




