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「三冠を達成する事は出来ませんでしたが、ミノンがエディリアの剣術界において成し遂げた功績は、それ以上のものです」
巨大怪獣ミノンがキルヒェに敗れた夜、マントノン家の屋敷の書斎で、現当主シェルシェは前々当主クぺに向かい、今年の三大会で中心的役割を果たしたミノンについて私見を述べた。
「ああ、実に惜しかったが、決してキルヒェやレチェに引けを取るミノンではない。ほとんど三冠に手が届いていたと言っても過言ではなかった。もしもあの時」
まだ、ララメンテ家の大会準決勝で心が止まっているおじいちゃまは、孫娘の三冠に未練たらたらの様子で、微妙にシェルシェと会話がかみ合っていない。
「既に確定してしまった歴史に『もしも』はありません。目を覚ましてください、おじい様」
「すまん。ミノンの無念を思うと、つい」
「ふふふ、ミノンは三冠を逃した無念より、好敵手に巡り会えた喜びの方が大きい様子ですよ。話を元に戻しますと、ミノンが活躍した結果、いずれも興業収入はアップ、入門希望者は増加、何より今まで関心がなかった人々に剣術への興味をかき立てるという、絶大な宣伝効果をもたらしました」
「昨年お前がやった事を、今年ミノンが引き継いだ形だな」
「それ以上です。あの子には人を惹き付ける天性の明るさがあります。私やレングストン家のエーレやララメンテ家のコルティナとはまた異なるタイプです」
「うむ、その通りだ。また、それが剣にも現れていて、見ていて実に清々しい」
「ふふふ、それに比べて私の剣は、『禍々しい』、などと形容されますからね」
シェルシェはそう言って、おかしそうに笑う。
「そうか? どちらかと言えば、『華麗な』、とか言われていた事が多かった気がするが」
「主に直接剣を交えた相手が、後でこっそりそう言っているそうです。それは構いませんが。ともかく、ミノンのおかげで小学生の部は大成功でしたが」
「問題は中学生の部、か」
「もちろんマントノン家にも強い選手はいますが、今一つ大衆受けするタイプではなく、この流れに乗り切れなかった感があります」
「その分、ミノンが小学生の部で補ってくれたと考えよう」
「補って余りある、とはミノンの事です。ともあれ、ララメンテ家の中学生の部の大会は、エーレとコルティナが盛り上げる事でしょう」
「そうだな。それにしても、ミノンは三冠まであと一息だったのに、もったいない事をした」
話の流れを無視してまでも、孫娘の幻の三冠を惜しむおじいちゃまだった。