◆133◆
大会終了後、会場の外で、優勝したレチェに対しララメンテ家令嬢コルティナから、「高級ホテルの極上スイーツ食べ放題ご招待券」の授与が行われた。
ララメンテ家の選手と応援団が見守る中、レチェと向かい合って立つコルティナが、
「大会優勝、またはそれに匹敵する成果を挙げた人に与えると約束していたこの賞は、長らく受賞者が出ていませんでしたが、本日久し振りにその資格を持つ人が出ましたー」
ふわふわとした口調で皆にそう言ってから、手にした封筒をレチェに差し出し、
「はい、レチェさん。ご家族の分と合わせて四人分、美味しいスイーツを楽しんで来てね」
「ありがとうございます。父も母も妹も喜ぶと思います」
それをレチェが笑顔で受け取ると、周囲から拍手が起こる。
「でも、序盤でミノンさんと当たっていたら、そこで敗退していたと思います。私が優勝出来たのは、運に助けられたのが大きかったです」
「じゃあ、その券は返上するー?」
「しません」
二人のやりとりに、どっと笑うララメンテ家の道場生達。
「じゃあ、そろそろ『残念会』じゃなくて『優勝祝賀会』に行くよー。いつもとやる事は変わらないけど」
コルティナの言葉に、また皆がどっと笑う。祝賀ムードにつき、ツッコミも入らない。
ララメンテ家の道場生一行がぞろぞろ連れ立って歩いていると、レングストン家の一団からちっちゃいツインテールの女の子が、先頭のコルティナの所までやって来て、
「防衛成功おめでとう。あなたの作戦勝ちね」
と、話し掛けた。言わずと知れたレングストン家のマスコット、もとい令嬢エーレである。
「うふふ。ちょっとだけねー。勝ち残りそうな選手のデータを分析して、それを基に対策を強化しただけ。でも、進化を遂げたミノンには通じなかったけどねー。あの巨大怪獣を倒したキルヒェはすごいと思うよ」
「そちらのレチェに優勝は阻まれたけれどね」
「巨大怪獣と戦って気力を使い果たした直後だからねー。あまりキルヒェを責めないであげて」
「最後まで全力で戦った子を責めたりしないわよ」
「いずれにせよ、自分が直接戦えないのはもどかしいよねー」
「そうね、次の中学生の部の大会では、お互い思う存分戦いましょう」
そう言って、エーレは右手を差し出した。
「お手柔らかに」
コルティナは、その差し出された手を左手で下から支える様に取って、右手でエーレの頭をよしよしと撫でる。
「犬のお手か!」
エーレがすかさずツッコミを入れた。
流石に失礼と思ったのか、ララメンテ家の他の道場生がすぐにコルティナを引き離し、エーレに詫びを言いながらも、
「この人、ちっちゃくて可愛いから、私もなでたいなあ」
などと不埒な事を思っていた。