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大会会場の観客はこの突然の結末に、どう反応していいのか分からなかったのが本音だろう。
まるで長く苦難に満ちた航海を終えて帰還した潜水艦の乗組員達が、上陸した途端、突如現れた敵の戦闘機に撃ち殺されてしまったかの様な、あっけない幕切れに。
怪獣映画のワクワク感は、戦争映画の無常感に取って代わり、優勝したレチェを讃える拍手にも、逆にどことなく寂しささえ感じられてしまう。
そんな中、ララメンテ家の選手達と応援団だけは、マントノン家とレングストン家の侵攻から本土防衛に成功した事を、大いに喜んでいた。
ふわふわお嬢様のコルティナを筆頭に、つくづく場の空気を読まない流派である。
それでも徐々に観客達も思考が追い付いていき、事の次第を理解し始め、
「要は、ララメンテ家の計画通りに事が運んだって事だな」
「キルヒェに一番厄介な巨大怪獣ミノンを始末させた後、そのキルヒェを倒す。そこまでララメンテ家は読み切ってたのか」
「最後のキルヒェ戦は、実力の勝利っていうより、研究し尽くした相手の弱点を突いた感じだもんなあ」
呆然としていたのが、感心した表情に変わって行く。
「となると、この計画を立てた参謀は」
「ああ、コルティナに違いない。ホントに予知能力でもあるんじゃねえか、あのふわふわお嬢様」
「でもまあ、いくら作戦がよくても、選手達がついて行けなければ意味ねえし。優勝したレチェも、相当努力したからこそ、ああも見事にキルヒェを倒せたんだろう」
レチェが表彰される頃には、素直にその功績を讃えるムードになっていた。
一方、閉会式終了後、選手控室では、ミノンが自分を倒したキルヒェに対し、
「準決勝戦は最高の試合でした。ぜひ、また公式試合で戦いたいです」
負けたにも拘わらず、興奮冷めやらぬ様子で喜々として話し掛けていた。
決勝戦で惜敗してかなり気落ちしていたキルヒェも、この巨大怪獣の天真爛漫さにつられて笑顔になり、
「ええ、また戦えるといいですね」
と元気を取り戻し、握手を交わす。
「でも私は六年生なので、戦えるとしても再来年の話ですけれど」
そう言って、五年生のミノンを見上げるキルヒェ。
改めて間近で見ると、とても小学生とは思えない大きさである。
この身長を少しウチのエーレお嬢様に分けてあげたら喜ぶだろうな、とつい思ってしまうキルヒェだった。