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怪獣映画の見所の一つとして、「ラスト、巨大怪獣が倒されるシーン」は外せない。
それまで縦横無尽に破壊の限りを尽くし、人々を絶望の淵の一歩手前まで追い込んだ巨大怪獣が、最後の最後に断末魔の咆哮を上げて派手に悶え苦しみながら息絶えていくシーンがあってこそ、全体のストーリーが引き締まると言うものである。
大人の事情により、あっさり続編で蘇る事もよくあるが。
今大会の主役であった巨大怪獣ミノンの最期も、準決勝戦という舞台といい、因縁の対決となった対戦相手といい、その熱く激しい戦いの末の決着といい、観客にとって申し分なく大満足のラストであった。
つまりほとんどの観客にとっては、「巨大怪獣ミノン」という映画はここで終わりであり、決勝戦などエンドクレジット位の認識しかなかったのである。
一応決勝戦にも、「レングストン家対ララメンテ家」という盛り上がる要素は入っているが、やはりミノンというスター怪獣の豪快な活躍に比べれば、やや冷めた感じは否めない。
「まあ、ここまで見たんだから、決勝も見届けておくか」
早くも祭りの後の余韻に浸っていた観客達は、そんな軽い気持ちで最後の試合の行方を見守る事にした。
決勝戦に残ったのは、ミノンを破って勢いに乗るレングストン家の精鋭キルヒェ・ドームと、ミノンの快進撃の影に隠れて地味に勝ち上がっていた、ララメンテ家のほぼ無名の選手のレチェ・アリナの二人であったが、どちらが勝とうとも、明日のスポーツ新聞の一面が「ミノン三冠ならず」で埋め尽くされる事に変わりはないと思われる。
そんなまったりとした雰囲気の中、いよいよ決勝戦が始まり、両者中段に構えて対峙した次の瞬間、勢いなく放たれたレチェの剣がキルヒェの左胴をあっさり打つ。
あまりにもあっさりと。
のんびりした気分で見ていた観客達が一斉に夢から覚めた様に、「え?」、という驚きの表情になった。
エンドクレジットの後で、まだ続きがあったらしい、と。
「巨大怪獣を倒すのと引き替えに、自らも力尽きて息絶えるのがヒーローの美学だよねー」
客席から双眼鏡で試合を観戦していたコルティナは、いつもと変わらぬふわふわな表情であったのだが。