◆125◆
コルティナの分析を基に巨大怪獣ミノンの撃滅作戦を立ててきたララメンテ家の選手達は、試合が始まるや、その作戦が既に時代遅れに成り果てていたのを、嫌という程思い知らされる事となった。
早い話、カウンター狙いの裏をかかれまくり、序盤でミノンと当たった選手はことごとく瞬殺されていったのである。
「シェルシェの入れ知恵だねー。まさかこんな短期間で、ミノンの弱点を改善出来るとは思わなかった」
観客席で双眼鏡を覗きこんだまま、コルティナが呑気に言う。
「このままじゃ、無駄死にかも」
「何とか伝えられないかな」
一緒に試合を観戦していた道場生達があわてふためく。
「大丈夫、あの子達はもう気付いてるよー。それにリズムを狂わされてるだけで、技を出す前の基本的な挙動は変わってないから」
そんな裏事情を知らない一般客は、巨大怪獣がララメンテ家の選手達をバッタバッタとなぎ倒す様子が見られて、単純に大満足。会場はミノンが圧勝する度に盛り上がり、「序盤で巨大怪獣を倒したら、お客さんが帰っちゃうんじゃないか」などと心配するどころの話ではなくなっていた。
「おや、ミノンさんの様子が?」
「進化してるよ、これ!」
「どうしよう、作戦を立て直さないと」
ララメンテ家の選手達は軽いパニックを起こし、無意識的に観客席のコルティナの方を見る。
それに気付いたコルティナは、双眼鏡を下ろし、
「こんな事もあろうかと用意してきた物があるのー。悪いけど、そっち持ってねー」
そう言って取り出した縦五十センチ横二メートル程の横断幕を、道場生に手伝ってもらい、広げて見せた。
「あ、コルティナさんから指示が来た!」
藁をもすがる思いで、ララメンテ家の選手が見た横断幕には、たった一言、
「臨機応変」
と、くっきり太い字で書かれている。
この大雑把極まる指示に、一瞬の沈黙の後、選手達は思わず噴き出し、
「そうだね。こうなったら、それしかないよね」
と開き直った。
「うふふ、うまく伝わったみたい」
その様子を見て、喜ぶコルティナ。
「あんたって人は、見た目通りふわふわなのか実は案外深いのか、よく分からんわ」
横断幕の一端を持つ道場生が、一応ツッコミを入れておく。