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エディリア剣術業界シェア第三位のララメンテ家では、もちろん二年続けて他家の選手に優勝を持って行かれる事を危惧していたが、それ以上に観客数の大幅な増加を見込んで、思いきって今までになく巨大な大会会場を借りるという大バクチに出た事の方に、経営陣は夜もろくに眠れぬ程ハラハラしていた。
「これで客が入らなかったら、全員ボーナスカットの上、給料も削減だ」
「女房に何て言い訳しよう」
「なーに、大丈夫、話題性は十分だし、何とかなるさ」
こんな会話が、連日蒼ざめた顔かつ震え声で行われている。
そしてララメンテ家の剣術全国大会小学生の部の当日、観客席がぎっしり埋め尽くされている光景を見て、
「ひゃっほう! 勝負に勝ったぞ!」
「巨大怪獣ミノンがララメンテ家を救ってくれたんだ!」
「もう誰が優勝したっていいや、給料がきちんと出るなら!」
と抱き合って喜ぶ経営陣の皆さん。
まさにあの令嬢にして、この経営陣あり。
「でもねー。本当に今回は大バクチだったんだよー。どの位ヤバいかと言うと、下手すればララメンテ家の本部道場が借金のカタに持って行かれる位に」
そんな裏事情を淡々と他の道場生達に説明する、あの令嬢ことコルティナ。
「うわ、何か生々しい話」
「大会運営って、本当に大変なんだね。選手はただ試合すればいいだけだけど」
「感謝しないとバチが当たりそう」
コルティナと一緒に試合観戦に来ていた道場生達が、ざわざわしながら感想を述べる。
「じゃあ、ララメンテ家のご令嬢であるコルティナも、気が気じゃなかった?」
道場生の一人が聞くと、コルティナは首を横に振り、
「全然平気だったよー。もうレングストン家の大会が終わった時点で、ウチの大入り満員は確定してた様なものだし、それ以前にミノンが参加してくれるなら、そこそこいけると思ってたからねー」
と、ふわふわした口調で答え、
「だから私は、あまり乗り気じゃなかった経営陣を丸めこんで、大バクチをやらせたの」
「あんたが首謀者だったんかい!」
ふわふわ令嬢ことコルティナの分析眼は、ララメンテ家の道場の経営陣からも一目置かれていた。




