◆120◆
大会終了後、見事二冠を達成したエーレは、会場の外でレングストン家の道場生達に、ここぞとばかりにもみくちゃにされていた。
「おめでとー!」
「よくやったねー!」
「感動したよ!」
「ウチの道場の誇り!
「ちっちゃいのにえらい!」
「かわいー!」
「お肌ぷにぷにー!」
「どれどれ、こっちの方は成長したかなー?」
「誰よ、どさくさに紛れて胸もんだのは!」
そんな抗議も虚しく、多勢に無勢で抵抗出来ないまま体中をべたべた触られ、そのまま胴上げに移行し、何度も何度も宙高く舞い上がるちっちゃなエーレ。
ようやく下に降ろされると、ララメンテ家の大会に出場する予定の小学生達が、エーレの試合を目の当たりにして興奮冷めやらぬ様子で、
「私達も頑張ります!」
と、力強く宣言し、
「その意気よ!」
エーレもその闘志を鼓舞する。
「はい!」
元気よく返事した後、エーレを取り巻いて再びもみくちゃにする小学生達。皆、エーレに触るとご利益があると勘違いしているのかもしれない。もしくは犬猫をモフる感覚か。
そんな風にエーレが集団痴漢に遭っていた時、ララメンテ家の道場生達は例によって、近くにある評判のスイーツ店で、残念会と称するお茶会を開いていた。
「これで、マントノン家のミノンと、レングストン家のエーレが二冠を達成した訳だけど、ウチの大会では、頑張って三冠を阻止しようねー」
コルティナが、狸の形をしたチョコレートケーキを前にして、ふわふわとした口調で言う。
「あの二人に勝てると思う?」
道場生の一人が、ストロベリーパフェを食べる手を休めて尋ねる。
「ミノンはレングストン家の子達に任せてもいいしー」
コルティナは狸ケーキの頭をスプーンですくい取り、
「エーレは今日の試合で大体分かったから、何とかなるんじゃないかなー」
そう言って、一口で美味しそうにぱくりと食べてしまった。