◆117◆
「しかし、ミノンは実によくやってくれた。あの子のおかげで、レングストン家に一矢報いる事が出来た」
可愛い孫娘の二冠達成に、すっかり祖父バカモードで喜色満面の前々当主クぺ。
「ふふふ。かなり危ない場面も多くて、見ている方はハラハラさせられ通しでしたけれど」
現当主シェルシェも嬉しそうに笑う。
「お前に比べるとまだ粗が目立つが、やはりミノンにも剣の才能がある。思えば赤ん坊の頃から活発な子だった」
おじいちゃまは甘美な孫の思い出モードに突入し始めた。
「ええ、紛れもなく剣の才能はあります。ですが、正直まだあの子に二冠は難しいと思っていました」
「この勢いで三冠を達成出来ると思うか?」
「ララメンテ家がそれを簡単に許すとは思えませんし、今回敗れたレングストン家も執念を燃やしてミノンに挑んで来るでしょう。かなり難しいかと思われます」
「うーむ。ここまで来たら頑張って欲しいものだが」
「ふふふ、勝つばかりが能ではありません。勝とうが負けようが、ミノンには不思議と人を惹き付ける魅力があります」
「スター性という奴か」
「ええ。レングストン家のエーレ、ララメンテ家のコルティナと並んで、マントノン家のミノンは今や剣術界のスターです。今後の剣術界は彼女達に牽引される形で、小中学生女子を中心に盛り上がる事は間違いありません」
シェルシェはそこで言葉を切って、妖しく微笑み、
「しかしながら、離脱派の立ち上げた新流派には、まだ小中学生女子のカテゴリーに有力な手持ちの駒がなく、このビッグウェーブに乗る事が出来ないのです」
「道場経営としては致命的だな」
「ええ、剣術界が盛り上がる中、彼らがひっそり息絶える未来しか見えません」
もっとも祖父バカ全開のおじいちゃまは、離脱派の未来より、可愛い孫娘が三冠を達成出来るかどうかの方が気にかかっていたのだが。