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当主シェルシェとの直接の話し合いを断った離脱派は、さらに代理でやって来た役員による慰留も拒絶し、結局の所、最初からまともに話し合いをする気などなかったのは明白だったが、シェルシェも内心は慰留する気などさらさらなかったので、お互い様と言えばお互い様である。
ただし、この騒動をネタに面白おかしく盛り上げようとするマスコミは、「いい歳をしたおっさん共が、いたいけな美少女に嫌がらせをして、鬱憤を晴らしている」、という構図を用意し、世間の人々も次第にそれが真実であると思い込む様に誘導されて行った。
やがて、シェルシェ自ら支部道場の統廃合を進める為の視察回りを開始するに及び、その構図は確定的となり、
「大変でしょうけど、頑張ってくださいね」
と行く先々で、難局に細腕で立ち向かうシェルシェを応援するムードの高まる中、混乱の収拾は着々と進んで行く。
一方離脱派は、グルーシャ・アシープカを盟主とする新流派「ドルゴーイ流」を立ち上げ、首都エディロに本部道場を構えたが、
「思ったより、入門希望者が来ないな」
と、いささか先行き不安なスタートを切っていた。
「いずれ消える運命にある新流派の事など、あなたは全く気にする必要はありません、ミノン」
レングストン家の剣術全国大会を前に、参加予定のミノンへシェルシェが助言を与える。
「ですが会場に来ているマスコミが、マントノン家の代表であるあなたに、この一連の騒動についてコメントを求めて来るのは確実です」
「その時は、何て答えたらいいんだ?」
ミノンが困った様な顔をして尋ねる。
「ふふふ、『私は小学生なので、細かい事情はよく分かりません』、と答えておきなさい。どこからどう見ても小学生に見えないあなたがそう言えば、それでジョークが成立します。マスコミや視聴者が求めているのは、そういうちょっとしたモノなのです」
剣のみならず、お笑いに関しても助言を与えるシェルシェだった。