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そして二年後、「強い騎士様」を望んだユティルが授かったのは、元気な女の子だった。この子はミノンと名付けられ、
「ミノンは活発だな。まあ、よく動くこと動くこと。流石は私の孫だけあって、これはいずれ男に負けない立派な女剣士になるかもしれん」
クぺの祖父バカをさらに誘発しつつ、二歳上の姉シェルシェ共々可愛がられる事になる。
しかし、母ユティルは娘が無事に生まれた事を喜びつつも、跡継ぎたる男の子が出来なかった事について、どこか落胆の色を隠せなかった。
「気にする事はないよ。ミノンも君に似てるから、さぞかし綺麗な子になるだろうな」
ミノンを高く持ち上げてあやしながら、スピエレはユティルを励ます様に言う。
「ええ、二人の子供は何よりの宝物です。三人になればもっと――」
「ねえ、ユティル」
スピエレはミノンを乳母に渡した後で、妻に寄り添い、
「二人共女の子だったのは、きっとマントノン家にとって何か意味があるんだよ。今は分からないけれど、きっと何か大切な意味が」
楽観的に言ってみせる。
ユティルはそんな夫の手を愛おしそうに取り、
「もう一人だけ、お願いします」
と、固い決意と共に訴えた。
「分かった。けれど、約束してくれるかい」
スピエレはユティルの手を優しく握り返し、
「無理はしない事。そして、今はこの娘達と楽しく過ごしてあげる事。いいね?」
そんな夫の言葉に、
「ふふふ、もしあなたが名門の当主でなくて、ごく普通の家庭の人だったら」
ユティルは微笑み、
「さぞや幸せに暮らせていた事でしょう」
「はは、昔、親父に言われたよ。『お前は生まれる家を間違えたのかもしれぬ』、ってね。でも普通の家に生まれていたら、君とはどうあがいても結婚出来なかったんだから、今より幸せになれたとは思えないなあ」
スピエレはそう言って、呑気に笑った。




