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「しかし、そう上手く行くかな。個人の小さな町道場が、経営方針を変更するのとは訳が違う。女性向けの宣伝に力を入れる余り、『マントノン家は、婦女子に媚びて武芸の精神を失い、惰弱化した』、などと非難される恐れもある。いや、確実に非難されるだろう」
少し考えた後で、前々当主クぺが意見を述べた。
「非難したい人達には、非難させておきましょう。却って話題になるというものです。実際には全体を弱めるのでなく、ライト層を拡充しようというだけの話ですから、これまで通り『強さ』を求める道場生には何の影響もありません。そういった本質的な事でなく、単にイメージ戦略の話にしても」
現当主シェルシェはにっこりと笑い、
「『強く、なおかつ美しく』のイメージを体現出来る女剣士が、ウチにはいますし」
と、自信を持って言いきった。
クぺは軽く笑って、
「自画自賛か。しかし、祖父バカと言われようとも、それについて異論はない。なるほど、イメージ戦略は完璧だ」
目の前の孫娘を、愛おしそうに眺めて言う。
「ふふふ、たとえ自画自賛になろうとも、使えるものは過小評価せずに使い倒します。亡きユティルお母様から与えられたこの顔立ちは、紛れもなくマントノン家にとって有力な武器の一つです。同じ顔立ちを与えられたミノン、パティと共に、今後十分に活用しなければなりません」
「差し詰め、『マントノン家の美人三姉妹剣士』だな」
「分かり易くてインパクトのあるイメージは、宣伝に打ってつけですね。残念ながら、私は現役を退いてしまいましたが、二人の現役の妹達には、剣術の方でも全力で頑張ってもらいます。ミノンはまだ粗削りながら、大会優勝を果たしてくれましたし、パティについても大会デビューに向けて、指導に力を入れて行く予定です」
「何かアイドルでも育成している様な話だな。しかし、確かにお前達三人なら、剣術抜きでも十分アイドルとしてやっていけるだろう」
孫娘可愛さの余り、おじいちゃまの祖父バカが暴走する。
「ふふふ、流石にアイドルとして食べていけるだけの自信はありませんが、マントノン家の為ならば、アイドル活動も辞さない覚悟です」
おじいちゃまに負けず劣らず、孫娘も別の意味で暴走気味である。




