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それぞれ別の場所で行われた、マントノン家の離脱派と当主の記者会見の様子は、その日の夕刻からニュースでエディリア全土に放送され、人々の間に、「離脱派が悪で、当主が正義」、という認識を植え付けるのに、さほど時間はかからなかった。
「マスコミは分かり易い対決構図を望むものです。不満を露わにした人相の悪い男達と、危機に敢然と立ち向かう少女を並べれば、どちらにどの様な役割を与えるべきかは一目瞭然です」
仮面の様な笑みを浮かべながら、シェルシェは書斎で祖父クぺに今回の記者会見について報告した。
「逆にもし、スピエレが今もマントノン家の当主のままだったら、マスコミは離脱派の肩を持ってスキャンダルを蒸し返し、こちらを糾弾していたかもしれないな。早目の当主交代が効を奏した訳だ」
クぺは机の上に置かれたノートパソコンで、今回のニュース映像を見ながら感慨深げに言った後で、
「お前は自分が当主を引き継ぐ事を申し出た時、この様な展開になる事を予期していたのか?」
と目を上げて尋ねた。
「当然、可能性の一つとして考慮していました。戦いとは、常に数十手先を読んで行うものですから」
妖しく微笑みながら、シェルシェが返答をする。
「真っ赤な彗星が通常の三倍以上で真っ青になりそうな心掛けだな。ともかくも、お前のおかげで、離脱派の出端は挫かれた」
「ふふふ、その気になれば彼らをすぐに潰せるだけのネタは押さえてあります。お父様のスキャンダルを糾弾する割に、自分達のスネは傷だらけですから。叩けば豪快にホコリが舞う事でしょう」
「声高に人の悪事をあげつらう者程、裏で悪事に手を染めているのは、よくある話だ」
「ええ、その通りです。ですが、今はそのネタを使う事を保留して、彼らに自由に泳がせておきます。マントノン家にとって危機的状況を残しておくことで不安を煽り、こちらの役員や親族をコントロールするのです」
「恐怖は人を操る効果的な手段、と言う訳か」
「はい。その為にも、離脱派の皆さんには少なくとも一年以上は頑張って頂かないと」
そう言って微笑むシェルシェを、頼もしく思うと同時に、悲しく思うおじいちゃまだった。
私の孫娘がこんなに怖いわけがない。