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エディリア剣術界のトップに君臨する名門マントノン家のまだ幼い次期当主ヴォルフが、なぜか三番目の姉のパティの部屋で女装させられている。
元々美形の少年がピンクのフリフリドレスに身を包んでいるその姿は、どこからどう見ても本物の女の子であった。いや、正確には男の娘と言うべきであろうか。
ただし、華やかな服とは対照的に、その表情は凛として引き締まっており、そのアンバランスさが却って妖しい色香すら漂わせている。
そんな弟に対し、顔を紅潮させたパティが、ハァハァしながら構えたデジカメを連写していた。
「いいわ、いいわ! そのまま、そのまま! 次はソファに座って! そのまま横になって! スカートを少し引っ張って生足を出して!」
そんな変態女に言われるがまま、リクエストに応えて少しも恥ずかしがる事なくポーズを取るヴォルフ。よく訓練されている。
「じゃ、次はいよいよ本番よ。そこに自然体で立って」
床で女豹のポーズを取らされていたヴォルフが身を起こすと、パティはデジカメを机に置き、代わりに刃渡り二十センチの戦闘用ナイフを取って、弟の前に立つ。
「うへへ、動いちゃダメよ。ケガするから」
息使いも荒く、ナイフを構えてそう言う姿は、通報待ったなしの危ない変質者にしか見えない。
「はい。いつでもどうぞ」
変質者を前にフリフリドレスのヴォルフが、いささかも臆する事なく待ち構える。
パティは一度大きく深呼吸し、荒ぶる息使いを整えてから、姿勢を低く構え、ナイフをヴォルフに対して素早く数度振るった。
ヴォルフのドレスの胸元に長い切れ目が交差し、布地が開いて素肌が露わになる。その肌には傷一つ付いていない。
「お見事です」
凛とした表情のまま、ヴォルフがパティの腕前を賞賛する。
その切り裂かれたドレスから覗く素肌を隠そうともしない堂々とした態度が、逆にエロティックな効果を醸し出して、何とも言えな
「何をしているのです、パティ、ヴォルフ?」
背後からの声に、パティのピンク色の妄想に染まった脳内が、一気に灰色になった。
いつの間にか部屋のドアが開いており、そこに佇んでいた一番上の姉のシェルシェが、一部始終を目撃していたのである。
氷の様な微笑を浮かべながら。