3.はじめての言語
3.はじめての言語
心の中で、厨二っぽい演説をしたせいか、少しばかり頭が冴えてくる。いやー、置かれた状況のせいで、さっきはだいぶテンション上がっちゃってたね。反省反省。後で思い出して顔真っ赤にしてベッドで手足バタバタさせたりするんだろうなぁ。
閑話休題。
落ち着いて考えれば、数十年後に滅びる世界に、言語が話せない状態かつ、病弱でいつ死ぬかも分からない体で、誰の庇護もない場所に放り出されただけの、とても簡単な状況だった。
「うわぁ」
いやこれ落ち着いて考えてもだいぶ酷いなぁ。笑っちゃうわ。ホントに。裏ドラ乗れば数え役満まで行きそうなレベルである。倍満確定とはいえ、嘆いただけで状況は変わらない。生きる為に、少しは真面目にやろう。と、思い直す。
先ほども述べたが、まずは言語学習を行うべきだろう。というかその他がどうしようもなさすぎる。体しかり両親しかり現状どうしようもない。世界の滅亡など、それこそ赤子たる僕がバブバブ言いながら立ち向かったところで、このプニプニの手を軽く捻られてお終いだろう。赤子の手……というやつだ。
さて、そうと決まれば言語学習だが、問題はそれをどの様に行うかだ。普通の二歳児ならば、周りの言葉をおうむ返しにする程度でも良いのだが、それでは遅すぎる。幼児ではない状態で、幼児と同じやり方を選べば、彼らが言語学習に費やす数倍、数年間以上は言語学習に費やしてしまう可能性がある。
またも余談だが、もしも貴方方が異世界に転生して、そして言語不能で、けれど僕とは違い両親に愛されており、かつ時間にも恵まれているならば、とりあえず「まんま」と言っておくと、場を乗り切れる可能性が高い。
なぜなら「まんま」という音は、乳児が発音でき、かつ両親が泣き声ではないと認識しやすい音だからだ。そう言う音は、逆説的に幼児に必要な言葉になっているケースが多い。
たとえば異世界から日本に転生して、日本語なんて分かんねーよ、となったとしても取り敢えず「まんま」と言えば「ご飯《おまんま》」が出てくる。同じ様に米国に異世界転生したとしても、とりあえず「まんま」といえば「母親」がニコニコと面倒を見てくれるだろう。
もちろん、骨格の作りがある程度人間に近い種族に転生しなければ意味は無いが。もしも人外転生だったらお手上げだ。
話が長くなるのは僕の悪い癖である。
閑話休題。
「ケイオス##?#####?」
さて、どうやって言語を習得するか。これはちょっとした裏技を使わせてもらう。
「全ての言語には必勝法があります」
……僕の属していた大学の教授の発言が思い出される。
『皆さんがどんな国、どんな地域に飛ばされても、まぁ1日あれば大抵の言葉を知ることが出来るエレガントな方法が、実は存在します。その方法があれば、どんな言語であっても、それが言語の形を成していれば、日常会話に困らないだろう方法があります。
故に私は言語学者ですが、日本語以外を話せません。いざとなったら現地の人にその必勝法を使い、学べば良いのですからね。学校での教育がどれほど意味のあるものか考えさせられますが。失敬。
さて、言語の習得方法ですが、【四股を踏んで3回回ってワンと鳴くことです】』
それは大学の言語学の授業の初回だった。その授業の受講を止めようとしていたと学生の半数が、それを聞いて席に戻ったのは、けれど記憶に新しい。
以下言語習得方法について。読み飛ばし可。
【第三回・パンピーでも分かる異世界言語習得法】
『ハァイ!ボブソン!今日は君に異世界言語習得法を紹介するよ!』
『えぇ!アリソン、どんな異世界、異国に転生しても、その国の言葉を僅かな時間で習得できる方法だって?そんな夢の様な方法有るのか?』
『もちろんさボブ!今日はそんな凄い方法を、君に教えたいと思う!これさえあればトラック転生の担当者の女神様がポンコツでも楽勝さ!』
ハハハハハハ!(スタジオの笑い声)
『じゃあやっていこう!まずは異世界で対話できる相手を探すんだ!同年齢、かつ同性である事が望ましいけど、とにかくその世界の言葉を喋れる人間を一人用意してくれ!それが無いと話にならないよ!今日は僕がお願いしておいた、英語を話せるチャーリーソン氏にお越しいただいてるよ!』
『えぇ、英語なら僕らも話せるじゃないか!この名前は飾りかい!ええっ、この放送日本向けだったのかい?道理で日本語で話してると思ったよ!ハハハ!』
『英語なら君にも成功が分かりやすいかと思ってね!僕の親切心さ。よし。じゃあやっていこう!』
『ボブ、まず状況を確認するよ。君は、英語を全く話せない異世界からの転生者だ。運良くチャーリーソン氏と話をする機会を得られた。ここからなんとしても、僅かな時間で英語を理解していかなければならない』
『そうだね、言葉が分からなければ(ピー)をアマゾネスで注文する事もプレイする事もできないよ……で、僕はこれから一体どうすれば良いんだい?』
『少し耳を貸してくれるか……』
『ふむふむ……って、えぇ!?【四股を踏んで3回回ってワンと吠え続けるだけで】英語が習得できるって!?』
『おいおい耳打ちした意味がないじゃないか。ともあれ、それで完璧だ、やってみてくれ』
『ウーン、俄かには信じられないけど……ジェンキンスのいう事だしなぁ。よし、ハーイ!ミスターチャーリーソン!』
『hmmm...?』
『はっ!ふっ!えいや!……!』
『w,what's!?,what are you doing!?』
『はっ!ふっ!ワン!ワン!ワン!』
『What's!?』(戸惑うチャーリーソン氏)
『……ダメじゃないかボブ!』
『アッハッハ!君は最高だよアリィ!』
『オイオイ、騙したな!チャーリーソン氏に申し訳ないじゃないか!』
『ハハハ、ヒー。ゴホゴホッ。い、いやいや騙すなんてとんでもない。これでもう君は英語の習得に大きな一歩を踏み出しているんだよ、アームストロング船長みたいにね!』
『寝言は寝てから言えよ、チャーリーソン氏は驚いただけだったろう!【いったい君は何をしているんだ】って疑問に思われちゃったよ』
『ほら、成功してる。英語で【あなたは何をしているんですか?】という文章が分かったじゃないか!』
『……?……オー!?……オーマイ……、ホーリー(ピーッ)!そうか!【その国の言葉で『貴方は何をしているのか』を聞けるようになった】のか!アリス……君って奴は!』
『フフ、ハー。あー面白かった。おっと、もう時間?オーケー。ボブが英語習得への偉大な一歩を踏み出した所で今回はお終い!』
『皆もポンコツ女神様によって異世界に放り出された時は試してみてくれ!次回は【パンピーでも分かる相対的物価指数の導入と貨幣縮尺】について!皆も楽しい異世界ライフを!』
『『『バイバーイ!』』』
【パンピーでも分かる異世界言語習得法・終】
シリアスは死んだ。良いやつだったが、登場する小説を間違えたのがいけなかったのだよ。
途中からは、あれ?読む小説間違ったかな?と思った方もいたと思う。その気持ちは痛いほど分かる。驚くべき事に、これは僕の大学の言語学、その授業の第一回で実際に使われた教材である。僕も授業でこの映像作品を見せられた時は、『入る大学を間違えたかな?』と相当に悩んだ。
が、実際、この教材はホンモノである。
【パンピーでも分かる】シリーズとして、度々大学の授業に登場したこの作品群は、教授達が真面目に自費製作したシリーズであり、相当に智慧に富んだものになっていた。因みに第四回は経済学の授業で使われた、僕のトラウマ回である。
さて、僕含む物好きな学生たちを大いに驚かせたシリーズ第三回の内容を掻い摘むと、【自分の知らない言語を学びたい時は、その言語の『何してるの?』or『それ何?』に当たる言葉をなんとかして知れば良い】と言うものだ。
例えば呼び止められて、よく分からない行動を取られたら、まぁ10人に2.3人くらいは【何してんの?】と日本語で問うだろう。
例えば呼び止められて、よく分からない絵を見せられたら、【何これ?】と日本語で問うだろう。
『【日本語の】何してるの?』が分かれば、その日本語における動詞+αを知る事ができる。『それ何?』が分かれば同じく名詞+αを全て知ることができる。と、こういう事である。
簡単に言ってしまっているが、事実とても簡単な話なのである。しかし簡単故に、知らなければ分からない。知識は力なり、とは誰の言葉だったか。身振り手振りでも何とかなるが、取っ掛かりをつかむまでに少なくない時間を喪うし、僕のような幼児が身振り手振りした所で、愛らしいだけである。自分で言うのもなんだが。
だがこの方法なら適当な動きをしているだけで、『ふふ、何してるんですか坊ちゃま』などと、メイドさんが喋りかけてくれる可能性が大いにある。それがわかればこちらの物だ。
さて、と僕は視線をメイドさんAに戻す。僕の戦いはこれからだ!
この言語習得方法と同じ原理が、とある言語の辞書作成に実際に使われたのだとか。




