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2.はじめての決意

 2.はじめての決意


 さて、生とは何だろうか。

 それは、『自らの生死を自らが決められること』だと僕は考える。


 急な、そして不躾な質問を許してほしい。生とは何か?、という疑問の答えを考えた事のある者は居るだろうか。色んな議論があるし、色んな意見がある。十人十色に成らざるを得ない質問だろう。命とは何か。生きるとは何か?


 生きるとは、命があることだろうか。

 それはきっと違う。言葉の言い換えに過ぎない。西という言葉を「東の逆」と言い換えるようなものだ。もっと明確に、答えなければならない。


 生きるとは心臓が動いていると云う事だろうか。それもきっと違うと僕は思う。脳が動いていなければ心臓が動いていても、それはきっと僕では無い。植物人間は生きているのだろうか。という問いだ。あるいは、僕の大事な人がそのような状態になったのだとしたら……。少しは考えも変わるだろうが……。


 では心臓と脳が動いている事か。それも違うと僕は思う。椅子に四肢を縛り付けられ、延々とエサが運ばれるのを待ち、自らの生死をすら決められない。僕には、それはとても生存とは思えない。


 故に今の僕は、自らを『生きている』とは言えない。熱病と云う病と、両親と云う圧倒的な権力の前に無防備で、世界の寿命を知り絶望し、言語という世界を生きる為に必要とされる中核の知識に乏しい。この僕の三重苦は、けれど笑ってしまうほどに『死んでいない』と云うだけだ。


 だからこそ。だからこそ、自らの生死を自らが決められる程度まで、僕は足掻かねばなるまい。理不尽に死にたくないのもそうだが……僕はとある理由から、生きなくてはならない。


 ……伽藍堂と見紛う都市、跡形もなく崩れる文明、火の矢のように堕ちる飛行機。悪魔のように笑う『魔導書』。あれだけの全てを崩壊に追いやって、けれど、僕が生きる意味など有るのだろうか……。


「うわぁ……」


 前世のあれこれを思い出して、ナーバスになりかけた僕は、けれど思考を切り替える事にした。あの手稿の言っている事が確かならば、やはり僕はこの世界で生きなければならない。


 僕と手稿の間で、どのような契約が交わされたかは、今更言うまでも無い。とにかく僕は、自らの持つ困難に打ち勝ち、僕の定義する「生」を手に入れなければならなかった。


 無論、ここまで「生死」についてごちゃごちゃと独白してはきたが、それらは全て僕の意見だ。僕は僕以外の全ての意見が間違っているなど微塵も思っていないし、だから僕以外の全ての人の生死感をどうこう言うつもりも無い。


 心臓が動いているだけで良い、他には何もいらない、と云う人や、メシが腹一杯食えればそれで良い、と云う人や、社会の役に立つことができれば良い、と云う人、自らの誇りのために命を捨てる事こそ生きることだ、と云う人もいるだろう。

 中には、他人に対する生死感と自分に対する生死感が異なる人すらいるだろう。自分には甘く、相手には厳しい『生存』を求める。いや、ともすればそう云う人の方が多いかもしれない。即ち、生死感を語るときは、『誰』の生死についてなのか、と云う観点が重要になる。


 例えば『自殺は悪か?』という問題を考える時は、『誰の(自分、あるいは他人)』、『どのような観点からの(法学、倫理学、哲学、或いは社会学等々)』議論なのか、と云う前提条件を確かなものにしなければならない。

 それ以外にも前提条件は無数に存在するだろうし、そしてもちろん前提条件や、善悪などという概念すらも、僕らが定義した事でしか無いと云う事実を、僕らは頭の片隅に置いておかねばならない。


 日本の法律で、自殺は罪では無いが、自殺幇助は罪になるのはそれらの最たる例と言えるだろう。行為そのものは罪でないのに、行為を手伝うと罪になる。前提条件の違いが、時に直感に反した結論を導く。


 閑話休題、兎に角、意見というのは多様性があった方が良い、と云うのが、パラドキシカルな僕の意見だ。


「####.ケイオス.####?」


 と、やはりよく分からない言語で、歌うようにメイドさんが此方に話しかける。病弱な体や、親の権力はどうしようも無いとして、ますば言語を何とかしなければなるまい。


 僕はまず初めに、この世界の言語を使いこなせるように成ろう、と心に刻み込んだ。

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