0.はじめての崩壊
初投稿です。稚拙な内容、遅筆、豆腐メンタル等、ご了承ください。
0.はじめての崩壊
借りた本を読んだら、世界が崩壊した。
我が身に降りかかった事ながら、なんて性急、なんて突飛、なんて理不尽、なんて支離滅裂な展開だろう。と、黒江 契は思う。
本を読んで、世界崩壊などと。普通に考えずともあり得ないことだった。彼の気難しい友人の言葉を借りれば『前後即因果の誤謬』などという難解かつ迂遠な言葉で持って、即座に切り捨てられる一文と言ってもいいだろう。
『良いかい契、本を読むくらいで世界は終わらないよ。例え世界が滅んだとして、それは滅ぶべくして滅んだんだよ。『君が一服した後に、隕石が降ったから、その隕石は君の煙草のせいだ』って論法と一緒だよ。それは紛う事なき、前後即因果の誤謬さ』
友人が、呆れたように言うのが聞こえるようだ。成る程気難しいあいつがこの場に居たなら口にしそうな迂遠な表現だ。
基本的に、本一冊を読んだくらいで世界は崩壊しない。世のビブリオフィリア達が『されど本』などといくら言ったところで、言ってしまえば『所詮本』なのだ。読書程度の些事で、ラッパが7度鳴るはずが無い。その程度の茶飯事で、ギャラの角笛は鳴るはずが無い。
ただし、残念ながら、誠に遺憾ながら、『全てのルールには例外がある』。時に偉丈夫は亀に追いつけず、時に矢は一寸たりとも進まず、時に砂一粒をして砂山と呼び、毛の一本を持ってフサフサと呼ぶ。全てのルールには例外があり、例外の無いルールは無い。
或いは、黒江が大学で言語学を学んでいなければ。或いは、暇の慰みに彼が友人から本を借りなければ。或いは、その友人が路地裏の骨董屋の隅に積まれた古めかしいそれを見つけなければ。或いは、骨董屋の主人が、偶然旅先で見つけたそれを求めなければ。或いは、異国の地のとある教会で、新しい神父によって、それが発掘されなければ。
或いは、あの時、よしんば、もしかしたら、こうでさえなければ……
そう云う、蝶の羽ばたきにも似た、微細な揺らぎの積算の上に、必然、運命、としか名付けざるを得無い偶然を伴って、その本は黒江のもとに在った。
そして最後は他ならぬ、黒江自身の意思によって引き鉄は引かれ、【手稿】は、コンマの先、那由他阿僧祇よりも遥かに多い0.00...の先の、...001、を捕まえ、自らの宿願たる世界崩壊を成し遂げたのであった。




