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4話

「「君、さっきの」」


俺と猛夫の姿をした少年は同時に声を上げた。


「この子、猛夫のお友達」


母さんは、俺を見ながら猛夫姿の少年に尋ねる。


「あんた、この子と何か約束してたんじゃないの。忘れちゃだめじゃない」


「え、あ、そう、約束してたんだ。だから戻ってきたんだよ」


少年は慌ててそういうと、俺の来ている服の襟をつかんで外へ引っ張り出した。


「ちょっと来い」


「ちょ、ちょっと。服が破れる。痛い」


「猛夫。せめて女の子にはもっと優しくしなさい」


俺は小さな悲鳴を上げながら、少年に家の前の道路まで引きずり出された。母さんは後ろから何か言ってくる。

少年は俺の襟をつかんだまま俺を壁に押し付ける。こんなに至近距離で上からにらまれるのは怖い。俺は顔をそむける。


「苦しいから放して。それに俺、いや私は何もしていないだろ」


しかし少年はどうやら息を整えてただけらしい。俺の話は聞かずに、手を離したかと思うと、直角90度の最敬礼を行った。


「申し訳ありませんでした。あんなことに巻き込んでしまい、本当にご迷惑おかけしました。何度でも謝りますから、家の人には言わないでください。お願いします」


もしかしてお前らが俺をこんな姿にしたのか。俺が起き上がったときは俺のこと全く知らなかったようだが。


「本当に御免なさい。申し訳ありません。この通り謝ります。ですから」


「そんなに謝らなくてもいいぞ。それよりお前たちはおれ、いや私に何をしたんだ」


少年は、謝らなくてもいいという言葉を聞くと、バッタが飛び跳ねるように体を起こし、俺の両手を握って涙が出そうな勢いで感謝の言葉を繰り返し始めた。


「ほっ、本当ですか。ありがとうございます。本当にありがとうございます。この恩は一生忘れません。ありがとうございます。今日は迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした 

 ・・・」


申し訳なく思っているのは分かったから、どうしてこうなったのか教えてほしい。俺がどう対応すべきか検討できないではないか。


「分かった。分かったよ。それで一つ聞きたいことがある。私はどうしてあそこにいたんだ」


「あそこ?」


少年は困惑顔になる。


「あそこって教会の物置部屋?」


「あそこ物置部屋なのか。それでどうして私はそこにいたんだ」


「いや、どうしてって言われてもな。こちらは何も知らない。君こそどうしてあそこにいたんだ。あそこは簡単に入り込める場所ではないはずだ」


少年は本当に困っているらしい。


「ちなみに俺たちが君を拉致したり監禁したりはしてないからな。あの機械から君が出てきて初めて君がああそこにいたことを知ったんだぞ」


「本当に?」


「もちろん。君こそどうしてあそこにいたんだ。教会の何か用事でもあったのか」


「そうではないんだ。なぜ私があんな行くことになったのか、まったく記憶がなくなってな。どうしてか教えてほしいんだ。お前たちは本当に何も私にしていないんだな」


「本当だとも。拉致などの犯罪は絶対にしていない。神明に誓ってそう言える。絶対に本当だ。信じてくれるよね。肝を拉致したって俺たちには何のメリットもないんだから」


少年は拉致などの行為はしていないと信じてほしいようだが、拉致ばかり強調すると却って疑いたくなる。俺が疑わしそうな顔をすると、少年は顔に不安を浮かべてますます力を入れて自分が潔白であると主張してくる。


「ところでさ、話が変わるんだけど、一つ聞いていい?」


少年は自身の潔白を主張するのは諦めたらしい。顔もなぜか落ち着いた表情をしてる。随分良く表情が変わる人だな。


「気分を悪くした申し訳ないんだが、俺と君の顔、少しだが似ていないか」


なんだそんなことか。それの質問はいまするべきことか。しかし似ているのは本当だ。俺が変化しただけだもんな。


「似ていると思う。それがどうかしたか」


俺の似ているという言葉を聞いた途端、少年の顔から血の気が引くのを感じた。


「そうか。やはり似ているか。でも、いやしかし、いや、でもそんなことあり得る訳ないよな。たぶん大丈夫だよな」


少年はそうつぶやくと、俺に手を振って走り出した。


「俺はそろそろ学校へ行かなければいけないから、またな。何かあったら俺に相談したらいい。できる限りのことはしてあげるよ」


俺は結局どうしてこんな状態になったのか全く分からなかった。しかもどうやらこの家は俺の住まいではないようだしな。もしかしたら、あの少年の仲間なら何か知っているかもしれない。できるだけ早く何とかしないと、寒さかあるいは飢えで野垂れ死に死ぬかもしれない。こういう問題が起きた場合に報告すべき担当部署はどこにあるんだろう。たぶん存在すらしていないからこんなに悩んでいるのだろうな。

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