1話
「ネジとって」
「はいよ」
「この部品付ける所間違ってないか」
「多分なとかるよ」
「ここちょっと曲がり過ぎだと思うんだけど」
「すこし力を加えれば何とかなるよ」
「もう既に本とは別の作品になっていない?」
「ちゃんと使えればいいんだよ。全くお前は頭が固いんだから」
紐で縛ってある芋虫の様な布切れが、部屋の半分を占領しそうな勢いで転がっている。その横で二人の少年、秀人と猛夫は、荷物の散らばった、埃まみれの薄暗い部屋の中で、熱心に他人から見たら何に使うのか見当もつかない物を作っていた。
秀人は大きくあくびをすると、設計図のコピーをポケットから取り出し、頭の上にかざしてからだるそうな声で言った。
「そろそろ、一旦動かして見た方が良いいんじゃね。いや動かすべきだよ。こんなもの俺たちが考えてた物と全然違うし」
「そうかあ」
猛夫はネジを締めながら、眠そうな声で答える。
「そうかもしれないが、しかし本に書いてある通りに作らなかったのはもっと性能を上げるためで、元の構想からグレードダウンしているような事は無いと思うから、大丈夫だと思うけれどなあ」
「それが駄目なんだよ。思いつきのアイデアを付け足していったら、いろいろと障害が出てくるだろ。完成してから障害に気が付いて、バラす事になってもいいならこのまま続けてもいいとは思うけど、お前絶対嫌がるだろう」
「それは偏見です。前例が幾つもあるから強くは言わないが。でもそろそろ疲れてきたし、一度動かしてみるか」
猛夫は、ゆっくりと立ち上った。
「それにさっきからお前がうるさく騒ぐし」
「何。まだ二回しか言ってないだろ」
二人がそう言い合っていると、芋虫状の布切れの端から女の子、和美が顔を出して言った。
「そもそも胡散臭い冊子に書いてある魔術の儀式をやるのに、障害もグレードアップもないんじゃ無いかな」
事の始まりは、築40年の廃教会の倉庫を漁っていたとき、古い本の中に、他の本とは違う雰囲気を纏った鮮やかな本を発見した。その本の名は「俺が召喚されたら使い魔になっていた件」。その長ったらしい題名、そしてその物語に出てくる様々な魔術と宝具。他の古本のような、単純な理論をひたすら小難しく語る下賎な本とは、埃にまみれてもなお一線を画していた。
猛夫と秀人は、その本を貰い受けて、熱心に読む事小一時間。読んだ後は感想を熱く語り、自分たちもその本に出てくる「召喚の儀式」を実行する事に決めた。そしてその召喚の儀式が行われたと言う現廃教会の物置部屋で、儀式に必要な道具の作成に取りかかった。
俺が朝目を覚ますと、俺の頭のすぐ上に大きな鏡が掛かっていた。いや壁に沿って浮いていた。誰かが俺の寝ている間に掛けたのは間違いと思われるが、調査を行った訳ではないため詳しくは分からない。詳しい情報がすぐに必要な訳ではない。結果、俺はまた寝た。別に俺がどうにかなる訳ではあるまい。
しかし鏡が浮くのを見るのは始めてだな。多分何かしかけがあるのだろう。
ガタン。ガガガ。
鏡が空中で、宙に浮いているとは思えない音を出して揺れた。なんか俺の平穏な二度寝を邪魔しようとする気配がある。
ギギギ。
このままじゃ気になって眠れん。俺は頭を少し下げてから、布団に潜り込んだ。
ガチャン。ドン。
いたずらならもう少し大人しく、目覚ましならもっと喧しく騒ぐ物だぞ。中途半端な騒ぎようにイライラした俺は、布団を蹴って足下に寄せ、立ち上がって鏡を移動しようと手を鏡に掛けた途端、俺は鏡の中に吸い込まれてしまった。