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アルタジア  作者: 桜花シキ
第10章 選択の時
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決戦の狼煙

「あっ、バドさん。帰ってきました!」


 クローリアが、海面に姿を現した3人に気がつき、バドに知らせる。3人の姿を確認したバドは、機体の高度を下げ、3人を引き揚げた。

 クローリアは3人にタオルを渡す。アストルもそれを受け取ったが、うかない顔のまま黙っていた。


「どうだ、変わりはないか?」


 黙ったままのアストルを横目に、ヴェインズはクローリアからタオルを受け取りながら、バドに尋ねた。

 すると、傍にいたクローリアが顔をこわばらせ、バドも大きなため息をつく。明らかに、何かあったようだ。


「それがな……大変なことになってんだ。録画したやつ流すから待ってろ」


 バドが機内に搭載されていたモニターの方へ近づき、何やら操作している。クローリアだけでなく、ルクトスも黙ったままモニターの方を見つめていた。

 しばらくして、モニターに映像が映し出される。そこに映っていたのは、間違いなくザイクの姿だった。そして、モニターに映し出されたザイクは、いきなりとんでもないことを言いだした。


【全世界に告ぐ。我々は、1週間後に世界統一を果たす】


「世界統一?何を言っているんだ……」


 ザイクの不穏な言葉に、黙ったままだったアストルも食い入るようにモニターを覗き込む。


【1週間後、サイモアに従わない国を破壊する。冗談で言っているのではない。我々は、実際にそれだけの力を持っている。証拠をお見せしよう】


 映ったのは、アストルが力を吸い取られた部屋にあった機械だった。そして、その周りに並べられた巨大なタンクの数々。


【この中には、神石のエネルギーを凝縮させたものが小分けにしてある。これをまとめて使えば、世界を吹き飛ばすことも容易い。長い年月をかけて、つい先日、必要量に達したのだ。これでも、まだ信じていただけないかもしれないな。まぁ、信じるも信じないも諸君の判断に任せる。我が国に従うと決めた国は、速やかにその決意を表明してほしい。期限である1週間の内に表明があれば、サイモアの新たな国民として受け入れることを約束しよう。その場合、身の安全は保障する。賢明な判断を期待しているよ】


 そして、そこで映像は途切れた。すべてを見終えたアストルは、目を見開いたまま後ずさる。


「俺のせいだ……」


 アストルは気づいていた。ザイクは真実を話している。あの巨大なタンクの中には、とてつもない量の神石エネルギーが溜められているはずだ。そして、その中にはアストルから吸い取られた力も、きっと含まれている。

 おそらく、ザイクが世界統一を実行に移せるだけの力を手に入れたのには、アストルのあの事件が大きく関わっているだろう。あれがなければ、こんなにも早く、こんな計画が実行されることはなかったはずだ。それに、計画が実行される前に、サイモアを止めることができたかもしれないのに。

 そう思うと、アストルは自分を責めるしかなかった。自分のせいで、世界が滅んでしまうかもしれない。かつて、アルタジアがユナに言っていたことが現実になろうとしている。

 アストルは、どうしていいのか分からず、その場にしゃがみこんだ。すると、その左足を何かがつつく。


「キュウウ……」


 ふと、そちらに目をやると、心配そうに見つめるメルフェールの、くりくりした丸くて大きい瞳があった。色々なものに敏感な水竜だから、何かいつもと違う様子に気がついたのかもしれない。部屋から抜け出して、ここまでやってきたようだ。

 

「メル……」


 アストルは、その頭を撫でてやった。メルフェールがその手に頭を摺り寄せる。


「メル……俺、どうしたらいいんだろうな?」


「キュウ?」


 メルフェールの頭に、一粒の水滴が落ちる。メルフェールは不思議そうに首を傾げ、アストルの頬を舐めた。

 アストルが神石と同等の存在であること、その力をサイモアに吸い取られたこと、そしてこのアストルの様子から、今回の一件にアストルが大きく関わっていることをクローリアたちも察した。

 なかなか一同が動けないでいる中、ルクトスが最初に動いた。アストルの隣に座ると、その頭を大きな手で撫でる。


「アストル、お前のおかげで俺はここにいられるんだ。ありがとな」


 落ち込む息子にかけてやれる言葉で思いつくのは、助けられてからまだきちんと言えていなかった感謝の気持ちだった。もっと気の利いたことが言えれば良かったのかもしれないが、不器用なルクトスにはこれが精一杯だった。


「親父……」


 それを聞いてアストルの表情が少し和らいだが、すぐに元の表情に戻り、口を閉ざしてうつむいてしまった。

 アストルが心に受けた傷は、すぐに癒せるものではない。そんな苦しむアストルの姿を見ているクローリアも辛かった。


「こうしてても始まらないよ。一度、アラン様のところへ戻ろう。レティシアがどうするのかも、確認しないと」


 クローリアがバドの方を見る。


「だな。いったん、レティシアまで戻るぜ」


 バドは同意し、レティシアまでの道を引き返し始めた。


新章開始です。クライマックスまでお付き合いいただければと思います。

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