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アルタジア  作者: 桜花シキ
第9章 歪んだ世界
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真実⑫

 それからしばらくして、ついにその日がやってきた。

 ルクトスはもとより、国民たちも無事にアストルが産まれてくることを祈っている。ユナがこれからしようとしていることを知らないルクトスは、ユナの手を握って励ましていた。

 その様子に、何だかルクトスのことを騙しているようで、申し訳ない気持ちになった。しかし、決心が揺らぐことはない。最後に、ユナは確認する。


「ルクトス……私との約束……覚えてる?」


 ルクトスは頷く。


「アストルを守る、だろ?」


 その答えにユナは頷き、微笑む。寂しさが、どうにもならない悔しさが、どこにもないといえば嘘になる。どうしても、3人で過ごす未来を想像してしまう。叶わないことだと、分かってはいるのに。

 世界は、すべてを手に入れられるほど甘くはない。常に何かを選び、何かを捨てて生きる。


「この子には、あなたしかいないから……よろしくね」


「何だよ急に、これで最後みたいな言い方しやがって……」


 ルクトスが心配そうな顔をする。


「私、すごく幸せだったよ。……ありがとう」


 すべてを手に入れることができないのなら、自分が納得できるものを選択する。だから、この選択をする。


「……ユナ?」


 ユナの言葉に疑問を感じながらも、その手は離れ、別な部屋へと運ばれていった。


 

 それから、しばらく時が流れた。

 そしてついに、もうすぐアストルが産まれる段階になり、周囲にいた人々もその時を待っていた。だが、その瞬間、予期せぬ事態が起こる。

 いきなり赤い光がユナを中心として部屋中に広がり始めたのだ。その輝きは、神石のそれとよく似ていた。

 予想もしていなかった事態に、辺りは騒然とした。


「王妃様!?」


 突然、赤い光に包まれたユナに、周りにいた人々が駆け寄る。しかし、近寄ろうとしても、その強い輝きに押し返されるように、一定の距離以上に近づくことができない。


 その頃ユナは、アルタジアと交わした約束を果たそうとしていた。約束通り、アルタジアが力を貸してくれている。後は、自分の力次第だ。


「アストル……私の力を、すべてあなたに……」


 ユナは自分の力を全て出し切った。それが、何を意味するか分かった上で。

 そして、その光は、しばらくして何事もなかったかのように消え去った。


 光が消えたことにより、ようやく周りにいた人々も近づくことができた。


「なんだったのでしょう?でも、無事にお生まれになりましたよ。元気な王子様です!」


 ユナは、従者の女性に抱えられたアストルの姿を見る。とても小さいが、元気な産声をあげていた。その様子に、ユナは安堵の表情を浮かべ、その小さな手に触れ語りかける。


「アストル……これが、あなたの世界だよ」


 ユナは微笑んだまま、瞳を閉じた。体の力が抜け、ぐったりと腕が垂れる。王妃様、そう周囲にいた人の呼ぶ声が遠ざかっていく。最後に、慌てて部屋に飛び込んでくるルクトスの顔が映った。


──そこで、ヴェインズの見せた映像は途切れる。


 現実に引き戻されたアストルは、しばらく沈黙したままだった。リエルナもヴェインズも、アルタジアも、言葉を発さずにその様子を見つめている。


「……これが、真実なのか?」


 ようやく口を開いたアストルは、そう言った。心なしか、声が震えている。


「ああ」


 ヴェインズは頷いた。


「どうして、俺なんかが残ったんだ……」


 アストルはそう言ってうなだれる。


「アストル!俺なんかなんて、そんなこと言わないで欲しいの……」


 その様子に、珍しくリエルナが大声を出した。そして、悲しそうにアストルを見つめている。


「お前の母の意志だ。私は、彼女の選んだ運命がどう動いていくのか、最後まで見届けようと決めている。例え、それがどんな結末を迎えようとも、な」


 アルタジアはそう語りかけると、うつむくアストルに尋ねる。


「アストル、これからどうするつもりだ?」


 かなり間をあけてからだったが、アストルはそれに答える。


「……正直、自分のことは、まだ受け止め切れてない。でも、俺はまだ旅の目的を果たしてないから……戻るよ。全部終わってから、また考える」


 そう言うと、ふらふらと立ち上がった。だが、心に受けたダメージは決して軽くないはずだ。


「大丈夫……ではないな。本当に行けるのか?」


 ヴェインズが心配したのか問いかける。


「何もしないよりは、いいから」


 一時でも、真実を忘れられるのならと考えたのかもしれない。


「そう……か。俺も、最後まで付き合おう」


 ヴェインズ自身も、姉の最後をここまで詳しく知ったのは今回が初めてだった。どういった経緯で、姉と甥の運命が入れ替わったのか、ようやく納得がいった。

 だが、そのせいでアストルは苦しんでいる。かつてのアルタジアの予言が現実のものとなってしまったのだ。ヴェインズは放っておくこともできず、最後まで力になろうと決心した。

 その様子を見ていたリエルナもまた、アルタジアに向き直る。


「アルタジア、私もアストルの旅に最後までついていくの」


「リエルナ……」


 アストルはリエルナを見た。その瞳には、固い決意が宿っている。

 リエルナは、アストルに真実を伝えるという役目を終えた今、本当ならこれ以上、この旅に同行する必要はない。

 しかし、アルタジアはリエルナの言葉を、素直に受け入れた。


「お前の意志なら、そうするといい。私は止めない」


 リエルナは頷くと、アストルとヴェインズと共に、その場を後にした。

 

 幻の大陸に残されたアルタジアは、世界の歪みを感じていた。


「運命が動く。アストル、お前はどう選択するのだろうな。私は、お前の意志を受け止めよう。お前は……真実から逃れることはできない」


 アルタジアは、もうすぐその旅が終わるであろうことを感じていた。


「例え、世界がどんな結末を迎えようとも……」


 アルタジアは、アストルの選択すべき時が間近に迫っていることを感じていた。

 

 世界は、止まることなく、来るべき運命へと進んでいる。 


この章は、これで終了しました。次回から新章に入ります。

自らの生い立ちを知ったアストルは気持ちの整理がつかないまま戻りますが、そこで待ち受けていた運命とは──


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