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アルタジア  作者: 桜花シキ
第9章 歪んだ世界
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真実②

「アストルが、産まれるはずじゃなかった……?」


 一番驚いていたのは、やはりルクトスだった。アストルは、確かに18年もの間、自分の息子として生きてきたのだ。急にそう言われても、どういうことなのか理解できなかった。


「アストルは……生きて産まれてくることができないはずだったの」


 困惑する一同を前に、リエルナはさらにそう言った。


「ルクトス王、あんたには姉さんが何か奇妙なことを言っていた記憶はないか?」


 ヴェインズは、ルクトスに尋ねる。

 ルクトスは、しばらく腕を組んで考えていたが、やがて何かを思い出したように顔を上げた。


「奇妙なこと……そういや、アストルが産まれる少し前に、『この子の未来が見えない』とか…」


 その言葉を聞いて納得したように、ヴェインズは頷いた。


「姉さんの力は、俺と違って未来を見る未来見(さきみ)の力だった。未来が見えないということは、その人間に未来がない──つまり、存在しないことを意味する。姉さんは、それに気がついたんだ。アストルが……この世界に存在できないことを」


「……どうにも納得できねぇな。それが真実なら、どうして今ここに、アストルは生きてるんだ?」


 何を言われたところで、アストルがここに存在していることは事実。疑いようのない現実だ。

 リエルナは、その言葉に対して何が起こったのかを話し出す。


「アストルが存在しないこと──それは、世界の運命のひとつだった。だけど、アストルのお母さんは、それを変えてしまったの」


「姉さんは、アストルを存在させるために、世界の運命を歪めてしまった。してはならないことを、してしまったんだ」


 アストルの存在に関わっているのは、今は亡きシャンレルの王妃ユナ。アストルを産んですぐに亡くなってしまった女性だが、そこには理由があった。


「アストルのお母さんは、自分の命と引き換えにして、アストルを生かしてもらえるように頼んだの」


「頼んだ、って……そんなこと、誰に?」


 ルクトスは、自分の身近な人のことでさえ、何も知らなかったことに愕然とした。

 ユナは、一体何をしたというのだろう?そして、アストルはどうやって生かされたというのだろう?“自分の命と引き換えにして”などということが、簡単にできるはずがない。

 そんなことができる人物など、この世界に存在しているのだろうか。リエルナは、その人物の名前を口にする。


「──アルタジアに。アルタジアは、まだこの世界に存在してるの」


「古代の研究者が!?」


 口をそろえて、その場にいた人間が驚いた声をあげる。古い文献に記されている情報が正しいとすれば、3000年も前の人物だ。


「姿は、もう人じゃないけど、存在してるの。私が生まれ育った幻の大陸、聖地ミストクルスに」


 世界六大陸、そのうち謎に包まれていた幻の大陸。リエルナは、そこから来たのだと話した。彼女が多くを語らなかった理由は、その生まれ育った環境のせいもありそうだ。


「幻の大陸は、アルタジアがその姿を隠すために作り上げた場所だ。リエルナの先祖、ミュレット=アルタジアは、そこでアルタジアを見守る役目を負った。代々それは引き継がれて、今それを任されているのがリエルナだ」


 ヴェインズは、そう付け加える。


「アルタジアなら、アストルを助けられるかもしれない。これから、そこへ連れて行く」


「でも、あそこにはアルタジアの子孫しか入れないの。普段は、誰にも見えなくなってるの」


「だから、その存在は幻だなんて言われてたんだね」


 幻の大陸に関する情報は、いくら情報屋といえど、未知の領域。ニトはその訳を知り、納得した。


「俺は、そこでアストルにすべての真実を“見せる”つもりだ。そのために、俺は呼ばれたからな」


「──俺も、一緒に行っていいか?」


 考え込んでいたルクトスが、ヴェインズを見た。ルクトスが行ったところで、幻の大陸には入れない。ヴェインズはそう伝えようとした。


「あんたが行っても──」


 しかし、ルクトスは首を横に振り、力強い口調で言った。


「途中まででいい。ただ、あいつが全部知って帰ってきた時、傍にいてやりたいんだ」


「僕も行きます」


 そう言って、クローリアが立ち上がる。


「いっそ、みんなで行っちゃおうか?」


 2人の様子を見ていたニトがそう提案したが、ヴェインズに却下される。


「いや、アストルにとっても、辛い話になる。あまり大勢で囲むべきではないだろうな。行くとしても、付き添いはルクトス王とクローリアの2人に抑えた方がいい。あいつと付き合いの長い理解者は、あんたたちだろう?」


 ヴェインズの言うことも尤もだ。本人でなくとも驚いた話を、アストルが聞かされたらどんな反応をするのか……なんとなく想像できる。


「じゃあ、あたしからボスに乗せてってもらえるか頼んどいてあげるよ。ボスは仕方ないでしょ?」


 水竜は、現時点で呼び出せるのはナルクルとザナルカスしかいない。その上、ザナルカスは呼んでもしばらくは出てこないだろう。おまけにアストルの状態を考えれば、クルッポー三号が最善の交通手段だった。


「そうだな、助かる。場所は、俺たちが案内しよう」


「じゃあ、さっそく出発するの。幻の大陸へ──アルタジアのところへ」



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