救出⑧
しばらく戦いを続けていたヴェインズだったが、ゼロが本気を出し始めたのと、自分の受けたダメージがもう限界に近づいたこともあり、そろそろ潮時だと判断する。
「そろそろ、時間稼ぎは終わりだ」
そろそろクローリアたちが脱出できたころだろうと思い、自分もこの場面から逃げ出すことを決めた。
それに気がついたゼロは、ヴェインズと距離をつめる。
「逃がしませんよ」
「こっちにも、まだ面倒な仕事が残ってるんでな。ここで、死ぬわけにはいかない」
ヴェインズは、戦いながら密かに溜めていた力を放出する。それは大きな爆発を起こし、建物の一部を破壊した。
ゼロは爆発の直前に危険を感じて後ろに飛びのいていたため、爆発には巻き込まれなかった。
崩れた瓦礫でゼロを足止めをしている間に、ヴェインズは引き返す。
「往生際の悪い」
瓦礫の隙間から見える背中を追いかけようとした時、突然ストップがかけられた。
「ゼロ、そこまででいい」
「ザイク様?」
呼び止めた男はザイクだった。ゼロはそちらに向き直る。
「あいつが脱走して暴れていると連絡があった。お前はそちらへ向かえ。彼のことは追わずとも、結果は変わらないだろうからな」
ザイクは、自分の勝利を確信しているかのような表情だった。
ザイクに何か言う気はない。しかし、ゼロは何かが引っかかっていた。ザイクが本当に望むものは、そこにないような──だが、自分は最後まで彼のために動こうと決めている。
笑みを浮かべるザイクを見ながら、ゼロは命令に対して頷いた。
「分かりました」
ゼロは、瓦礫で塞がった通路ではない道から、ドガーを止めに向かった。
「侵入者発見!殺しても構わん!」
「おいおい……逃げ道塞がれてるのか」
行きで使ったルートは、既にサイモア兵で溢れかえっていた。万全の状態なら倒して進むこともできたのだろうが、それができるほど力はもう残っていない。
「仕方ない……強行突破だ」
ヴェインズは最後の力を振り絞り、もう一度爆発を起こす。その衝撃で壁に大きな穴が開き、外への道ができた。
そこから脱出してみると、クルッポー三号の機体が見えた。あちらもこちらに気がついたらしく、高度が下がり扉が開く。何とか、ヴェインズはそれに飛び乗った。
「ヴェインズさん!大丈夫ですか!?」
だいぶ重傷を負っているヴェインズを見て、クローリアが目を丸くする。
「平気だ……。リエルナ、アストルは?」
ヴェインズは、痛みをこらえてリエルナを見る。
ヴェインズが搭乗する少し前に運び込まれたアストルの様子を確認していたリエルナだったが、泣きそうな声で首を横に振る。
「これは、怪我じゃないから……。アストルが自然に回復するのを待つしか……ないの」
「そんな……どうしちゃったんだよ、アストル……」
クローリアがアストルの様子を見ながら、心配そうな顔をする。
「──それは、俺が説明する」
グレンは倒れるアストルの傍に座り、そう言った。ヴェインズも、ゼロにやられた怪我のせいで苦しそうにしながら話し出す。
「俺も……俺とリエルナにも話さなければならないことがある。だがまずは……アストルを安静にできる場所まで運ぶぞ」
「とりあえず、レティシアまで」
アランの言葉に、バドは方角をレティシアの方に合わせる。
リエルナはアストルの心配をしつつも、ヴェインズの治療をするため彼の横に座った。できることならアストルも治してやりたいが、怪我を治すようにはいかないのだ。
おもむろに、ヴェインズがアストルの額に手を当てる。瞳が赤く変わり、しばらくしてから元の色に戻った。
額から手を離すと、ヴェインズはリエルナに“見えた”ものを話す。
「リエルナ、アストルは自分がどういう存在なのか知ったようだ。ただ──一番辛いことは、やはり俺たちしか伝えられない。目が覚めたら、ちゃんと役目を果たすぞ」
唇を堅く結びながら、リエルナは無言で治療を続けていた。
──やはり、言ったとおりになっただろう?
──いまさら、何を言っても変わりはしない
──加担した者として、役目は果たそう
──今こそ、来たるべき時……