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アルタジア  作者: 桜花シキ
第2章 大国レティシア
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予期せぬ来訪者

──眠れない


 アストルは、傍に置いてあった厚手の白い長袖と、黒く丈の長いズボンに着替えた。


 着替え終わると、アストル愛用の拳を守るグローブが目にとまる。これは昔ルクトスから譲り受けたものだ。アストルが得意とするのは主に父から習った体術だが、何かあると魔法に頼るところが大きかったため、体術はめったに使ってこなかった。


 水竜のウロコから作られているので、はめてみるとひんやりと冷たい。その上、丈夫──アストルはサイモアの砲弾に次々と倒れていった水竜たちを思い出し、顔をしかめた。


 拳を握りしめると、アストルは部屋の外に出た。


 1週間ぶりに歩いたからか、だいぶ筋力が衰えている。ちょっと歩くたびにふらついた。


 部屋の前に立っていた2人の若い男の兵士のうち、ひとりがアストルに気づいたようで、もう起きても大丈夫なのかと聞いてくる。


「はっ……、大丈夫であります!」


 アストルより先に、居眠りしていた兵士が慌てたように返事をした。


「お前に言ったんじゃない!また寝てたな?」


「ね、寝てないぞ?」


 反論するも、明らかに目が泳いでいる。

 アストルは、言い争う2人を後に、階段を降りていった。


 しんと静まり返った夜の城は暗闇に包まれていたが、ひとつの部屋から明かりが漏れている。


──こんな夜中に、何だろう?


 耳を澄ましてみると、アラン王とクローリア、そして知らない人たちの声が聞こえてきた。


「お前の言うことを、素直に信じるわけにはいかないのだよ」


「信じてもらわなくても結構だが、シャンレルの王子アストル殿がここに亡命してきていることをサイモアが既に知っているのは事実だ」


「それはそうだが……なぜ、それをサイモアの人間であるお前がわざわざ?」


「司令官は、シャンレルで見たという強大な力を探している。それを王子ならば知っているのではないかと、そう思っているようだ」


「それはそうだろうが、なぜひとりで乗り込んできたのだ?お前は、アストル君を捕まえにきたのではないのか?」


「俺は──そんな力が本当にあるのなら、サイモアを……滅ぼしてもらいたいと思って、ここにきた」


「どういうことだ?」


 廊下で聞いていたアストルは、思わず飛び出した。

 ぐらついて倒れそうになったところを、クローリアが支えてくれる。


 アストルは声の主を見た。


 体格のいい、いかにも戦い慣れしていそうな顔つきをしている男だった。

 彼を取り押さえるような形で、兵士が周りを取り囲んでいるが、彼が抵抗する素振りはない。


 彼はアストルに向き直ると、言葉を続けた。


「アストル王子か?」


「……そうだけど、顔まで知れ渡ってるのか?」


「いや……先日連れてこられたシャンレルの王に似ていたから、そう思っただけだ」


「え?じゃあ……」


「この人の話だと、ルクトス様は生きているらしいんだ。捕虜扱いだけどね」


 クローリアが言った。


「……助けに行かないと」


 焦るアストルに、サイモアからきたという男は早まらないよう注意した。


「何のために、王が生かされていると思っている?息子であるお前を脅して、力の在処を聞き出すためだろう」


「あ……」


 アストルは、また軽率な行動を繰り返しそうになった自分を恥じた。


「そこで相談なのだが、俺にも協力させてもらえないだろうか?サイモアの、俺が知る限りの情報なら、いくらでも提供する。その代わり、サイモアを滅ぼす力を貸してほしい。サイモアのやり方には、しばらく前から疑問を感じていた……。もう俺は、サイモアに力を貸すつもりはない」


「あんた……何者なんだ?」


 随分と、サイモアに反発している。

 見たところ、兵士のようだ。戦場で色々と悲惨な光景を目にしてきたのかもしれない。


「俺は、シルゼン=グレゴルド……元・サイモア軍第三隊の──隊長だ」


 隊長が、自分の隊を捨ててきたというのか?

 隊長と聞いて、クローリアが口を挟んだ。


「隊の仲間は家族も同然だ。僕も、頼りないけど隊長だったから分かる。それを捨ててまで……彼らを敵に回してまで、あなたには戦う意志があるということですか?」


 シルゼンは頷いた。


「守りたいものを、全て守れるほどこの世界は甘くない。ひとつを守るために、何か大切なものを捨てなくてはならない……それが現実だ」


 その目は真剣だった。

 信じても、いいのだろうか?


「それで、君は何を守るためにサイモアと戦うつもりなんだい?」


 アランの問いに、はっきりと答えた。


「サイモアのやり方は間違っている……そう信じる、俺の意志だ」


 クローリアは、判断を仰ぐようにアストルを見た。シルゼンも、じっとアストルの答えを待っている。

 アランの方に目をやると、アランは無言で頷いた。


「……分かった、協力する」


「そうか……礼を言う。それで、力というのは一体……」


「まぁ、今すぐでもなんだ……アストル君もクローリア君も今日はもう寝るといい。一晩寝て、気持ちが変わることもあるだろう。君も、それでいいね?」


「ああ。無理な頼みを聞いていただけるのだから、いくらでも待ちます」


「……だそうだ。早く部屋に戻りなさい」


 アランに追い出されるようにして、2人は部屋に戻っていった。

 残ったのはシルゼンとそれを取り囲む兵士、そしてアランだけだ。


「君に聞きたいことがある。ザイクとは、どんな人物なんだい?できるだけ、詳しく教えてほしい」


「あの人は、元々サイモア王家に仕えていた一族の出だという噂を聞いたことがある。それほど権力のある地位には就いていなかったらしいが……」


 アランは身を乗り出した。


「他には?」


 シルゼンは考え込んでから、口を開いた。


「革命が起こった時、俺はまだ幼かったから詳しいことは知らないんだが……ブレンディオという家名を持っていて…」


「ブレンディオ……だって?ザイクというのは本名か?」


「ザイクというのは愛称だ。本名は、ザイラルシーク=ブレンディオ=サイモア。サイモアは、彼が司令官になった時から名乗り始めたらしいが……」


 それを聞いて、アランは言葉を失った。


 恐れていたことが、確信に変わってしまった。

 やはり、あいつだったのだ。


ザイラルシーク=ブレンディオ=サイモア (49)


「ザイク…なぜお前がルクトスを…」


 仲のいいアランとルクトス──

 しかし、昔は3人だった。


 ザイクも含めた──3人だった。




「アストル、本当にいいんだね?サイモアの人間に手を貸して。君の力のこと、話さないといけないよ?」


「それしか思いつかないだろ……?サイモアのこと知ってる人間が協力してくれるなんて、これを逃したらもうない。……道が見えてきたんだ、これからどう進めばいいのか」


 アストルは目を閉じた。


 あれほど眠れなかったのに、目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちていった。


ルクトスが生きていた。

そして、昔は友達だった──



アストルたちに新たな協力者も現れ、

戦いの準備は整い始めました。

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