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アルタジア  作者: 桜花シキ
第8章 軍事国家サイモア
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救出④

「検査はこれで終わりだ。後は、部屋でゆっくりするといい」


 数日かけて、何時間も詳しい検査が行われた。さすがに疲れてきていたアストルは、少しほっとする。

 しかし、“部屋で”というのはどうにも納得いかなかった。ルクトスはずっと牢に閉じ込められていたのだ。その代わりとして来たはずなのに、この優遇の違いは受け入れがたい。


「俺も、親父と同じく牢じゃないのか?」


「君は大事なお客様だからね。身体でも壊されたら大変だ」


 ザイクの返答に、やはり納得いかなかったアストルは不機嫌そうに呟く。


「……俺も、あそこでいい」


「強情だね」


 すると、その様子を黙って見ていたグレンが、こちらに歩いてきた。


「──司令官、俺と同室でも構いませんか?少し、アストルと話がしたい」


 何を思ったのか、グレンはそう言った。

 しばらく考え込むザイクだったが、ちらりとアストルの方を見て尋ねる。


「それならどうかな、アストル王子?」


「えっと……いいのか、グレン?」


「俺が自分でそう言ったんだ。何で聞く?」


「あ、うん……じゃあ、そうするよ」





 グレンの部屋にはベッドが2つ置いてあった。元々は、サイモア兵たちの相部屋なんだという。

 部屋に入って左側のベッドに腰掛けたグレンは、アストルにも座るよう指示した。反対側のベッドに座ったアストルは、グレンと向かい合う。


「お前が神石なら、ここにいるのはまずいんじゃないか?」


 最初にグレンが言ったのは、そのセリフだった。

 どういう意味か分からなかったアストルは首を傾げる。しばらくして、アストルはピンときた。


「え?──あっ!」


 そうだった。

 ザイクは、神石を集めている。もしアストルが神石なのだとしたら、通常よりかなり巨大な大きさだ。 

 しかし、それを聞いたのは船の中だったし、混乱していて今まですっかり忘れていた。

 

「事情はあったんだろうが、移動中なら逃げ出すこともできただろうに。まぁ、お前が捕まったのは、俺にも責任があるだろうからな……そこは、謝っておく」


 グレンは頭を下げた。


「そのために、俺を呼んだのか?別にグレンのせいだとは思ってないけど……どうして、サイモアに?自分から来たって聞いたぞ」


「文句くらい言えよ……」


 グレンは不機嫌そうに顔を逸らした。


「だから、別に俺は──」


「俺にはある。山ほどな……」


 グレンは我慢できなくなったのか、ついに話し始める。


「俺は、王位継承順も5番目で一番最後……能力も、一番下だ」


 レティシア王家には、5人の王子がいる。アストルがそのうち会ったことがあるのは、グレンとそのひとつ上の兄ブレイン、それからディランにも会ったことがある。その時は、ディランがブレインよりも年上であることに気がつかなかった。

 そしてまた、グレンは話を続ける。


「兄上たちは、みんな優秀だ。長男のガヴァンは統率力。次男のディランは武術。三男のイアンは人徳。四男のブレインは頭脳明晰。俺に、いったい何が残るっていうんだ?」


「お前の剣術は──」


 アストルの言葉をグレンは遮る。


「剣聖なんてのは──偽りの称号だ。兄上たちの剣術を見たら分かるさ。ガヴァンやイアンには勝ったことがない。わざと負けられた時は、悔しさを通り過ぎて惨めだったな」


 そう言って、グレンは自分を嘲るように笑った。

 かと思うと、今度はアストルを鋭く睨む。


「アストル、お前もだ。俺はずっと、お前と比べられてきた。同じ年でも、お前の方がずっと優れていると…みんな陰で言っていた」


「俺が?俺のどこが──」


 アストルは目を丸くした。


「自分では分からないだろうがな……。神石であれなんであれ、お前に力があるのは確かだ。第一王子で、人からも好かれる。父親からも大切にされてる。その上、その馬鹿な性格。どうしてお前は真っすぐでいられる?どうして何かのために犠牲になれる?どうして──どうして、俺は……何にもなれない」


 後半は、悲痛なまでのグレンの心の叫びだった。

 グレンがサイモアに来た理由。なんとなく分かった気がする。

 彼は、誰かに必要な存在だと認められたかったのだ。そして、ザイクはきっとそれを利用した。グレンの力が必要だ──とか、きっとそういうことを言ったのだろう。


「グレン……アラン様は、お前のことすごく心配してると思う。口にはあんまり出さない人だけど、なんとなく俺にも分かったよ」


「……本当に馬鹿だな。やっぱり、お前のことは好きになれない」


「そっか……」


 アストルの様子に舌打ちすると、グレンは横になった。


「……もう寝る。電気消せよ」


 アストルは言われたとおり電気を消すと、自分も横になった。

 




──解析終了しました。結果を印刷しますか?


 パソコンの画面に映された質問に対して、“はい”を選択する。印刷されたばかりの用紙を持って、ゼロはザイクの元へ向かう。


「ザイク様、結果が出ました」


「ご苦労だったな。それで、どうだ?」


 用紙を受け取り、それに目を通す。


「やはり、間違いはありませんでした。彼は、全身の至る所すべて、神石でできています」


「やはりな。しかし、本当に神石の謎は深いよ」


 ザイクはそう言って笑う。その様子を見ながら、ゼロは尋ねる。


「ではザイク様、“あれ”の準備を進めてよろしいですか?」


「ああ、もちろん」


 ゼロの機械的な声に頷きながら、ザイクは怪しく微笑む。


「もうすぐだ。もうすぐ──世界は……」


 それをゼロは無表情でしばらく眺めていたが、やがてくるりと向きを変え、部屋を後にした。


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