救出①
「──やっぱり、こうなるのか……俺も用済みだな」
ルクトスがいなくなった後、しばらくその牢の前でうずくまっていたアストルだったが、聞き慣れた声に顔をあげる。
「グレン……」
「司令官が、お前を連れてくるよう言ってる」
不愛想にグレンは伝えた。
「そうか……分かった」
特に抵抗するでもなく、アストルはすんなり受け入れた。その様子に疑問を感じたのか、グレンは首を傾げる。
「……やけに、おとなしいな」
すると、唐突にアストルが尋ねてきた。
「なぁ、グレン……お前は、俺の力のこと知ってるよな?」
「……それは、まぁな」
グレンは少し溜めてから答えた。ザイクには話していないが、子供の時から知っている。
元々、アランとルクトスの仲が良かったことから度々アストルとグレンも顔を合わせていた。同世代だったこともあり、昔は一緒に遊んでいた記憶がある。ただし、子供の時は、だ。
それはさておき、今更それが何なのだろうとグレンは思う。次の瞬間、アストルの口から飛び出してきたのは、思いもよらない言葉だった。
「俺──神石なんだってさ」
「は?」
グレンは思わずそう言った。その発言には、それが一番妥当な返答だろう。
「ザイクがそう言ったんだ。俺にも、よく分からないけど……」
「それで、信じたのか?」
「なんか、納得しちゃってさ……」
すっかり元気のなくなったアストルを前に、グレンはため息をつく。
「お前が神石、か……。まぁ、俺にはどうでもいいことだけどな」
「気にしないのか?」
ばっ、とアストルが驚いたようにグレンを見る。
「気にしないも何も、お前のことが嫌いなのに変わりはない。俺は、アストル=ウルヴァージュ=シャンレルという存在そのものが、気に喰わないだけだ。お前が神石だろうと何だろうと……お前は俺が求めてるものをいつだって持っていた……。──話は終わりだ、行くぞ」
「ああ」
面と向かってはっきり嫌いだと言われたが、それでもアストルは心のうちでほっとしていた。
──グレンは、俺が何であれ……態度は同じままでいてくれるんだな
アストルは立ち上がると、先を行くグレンと共に階段を上って行った。
「ザイク様、あの結果どうお考えですか?」
アストルを呼び出したのは、再度検査を行うためだ。ゼロはその準備を整えながらザイクに尋ねた。
「間違いがないのか、もう一度ちゃんとした検査をする。だが──私の作った機器が故障していたわけではない。事実だと、認識せざるを得まい」
「しかし──どうしてそんなことが?」
「さぁ、そこまでは分からないよ。それに、今更それはどうでもいい。我々の理想は、もう果たされようとしている」
ザイクは、そう言って笑う。
その様子を見ながら、ゼロは無表情で尋ねた。
「ザイク様、それで本当にあなたの望みは果たされますか?」
「……何が言いたい?」
ザイクは思わぬゼロのセリフに、表情を戻す。
そんなことをゼロが言い出したことは、出会ってから一度もない。出会ったときから感情はなく、ザイクの言ったことにただ従うだけだった。
「いえ、俺は最後まであなたについていきます」
しかし、すぐにゼロはいつもの調子に戻る。
「そうか…お前の力、頼りにしている」
「はい」
作業を再開し、少ししたところでグレンがアストルを連れてきた。
「司令官、アストルを連れてきました」
「ご苦労、グレン王子」
「どうして俺を呼び出したんだ?」
あたりを見回してみると、見たことのない機器が色々と置いてある。おそらく、神石関係の測定器か何かだということは察しがついた。
「君を詳しく検査したくてね。君のような体質の人間を、私はまだ見たことがない。知りたいだろう?君も」
「ああ…このままじゃ、モヤモヤする」
顔を曇らせたまま、アストルは答える。
その様子を、壁に寄りかかりながらグレンは無言で眺めていた。