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アルタジア  作者: 桜花シキ
第7章 休戦協定
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緊迫⑦

 アストルがサイモアに連れて行かれてから、数日が経過していた。

 その間、クローリアたちはアランの元に身を寄せる。みんな口数が減り、重々しい空気が漂う日々が続いた。

 そんなある日、暗く沈んでいたクローリアたちの元に、懐かしい人影が現れる。最初に気がついたのはクローリアで、真っ先に駆け寄った。


「──ルクトス様!」


 そこに現れたのは、サイモア兵に護送されてきたルクトスだった。サイモア兵はルクトスを送り届けると部屋を出て行く。

 ルクトスはクローリアの姿を見るやいなや、その肩を掴んで尋ねた。


「クローリアか?一体、何が起こってるんだ!?」


「ルクトス、まずは落ち着け」


 その場に居合わせたアランが、混乱するルクトスを諭した。


「アラン……何が起こってるんだよ……」






 ルクトスにも、ここに至る経緯が話された。


「それで、あいつは身代わりになったってのかよ……」 


 ルクトス、そしてシャンレルの人質たちは約束通りレティシアまで送り届けられた。シャンレルの人々は送り届けられた後、レティシアで健康診断を受けている。

 しかし、ルクトスだけはこの部屋にやってきたのだった。


「バカか、あいつは……」


「お前の息子だからな……。しかし、今回は私の力不足もある。すまない……」


 アランは頭を下げた。


「お前は悪くねぇだろ。それに、グレンか……あいつもサイモアにいるってのは驚いた」


「グレンに会ったのか!?無事か?」


「お、おう。大丈夫だったぜ」


 いきなりアランが大声をあげるので、ルクトスは少し戸惑った。

 アランも自分がそうしたことに驚いたのか、はっとしてから深呼吸する。


「そうか──無事ならいいんだ」


 また重々しい沈黙が流れた。

 しかし、その沈黙を裂くように突然、部屋の扉が乱暴に開かれる。


「苦労して来てみれば……またいない、だと?──いい加減に腹が立った。殴り込ませてもらうぞ……」


 驚いて入り口の方に目をやると、どうやって入ってきたのやら、大鎌を背負った全身びしょ濡れの男が立っていた。苛立っているのか、言葉に棘がある。

 

「君、どうやって中に──」


 言いかけた言葉をアランは飲み込む。

 男の後ろには倒れた兵士の姿があった。


「勘違いするな、死んでない。ここまできて突っ返されるのはごめんだったもんでな、少し眠ってもらった」


「もしかして……ヴェインズさんなの?」


 その姿を見たリエルナは、立ち上がりその男に歩み寄った。

 男はリエルナを見ると、また苛立った表情をする。


「リエルナか……お前にも腹は立ってるんだがな。まぁいい、その通りだ」


「ヴェインズさん、って?」


 一同は首を傾げる。リエルナだけは彼が何者か知っているようだが、それ以外は会ったことも、聞いたこともない。

 男はため息をつくと、面倒そうに口を開いた。


「俺は、アストルの叔父にあたる。名は、ヴェインズ=グラットレイ。アストルの母親……俺の姉、ユナ=グラットレイの弟だ」


「お前が……ユナの弟?」


 ルクトスは目を丸くする。ユナはアストルの亡き母だ。生前、弟がいるという話も、グラットレイという家名も聞いたことがない。

 彼女は、ただ“ユナ”とだけ名乗り、詳しいことは何も話さない人だった。出会ったときから、少し周りとは違っていたのだが、ルクトスは聞かれたくないことは無理に聞かないし、人と違っていても気にしない性格だったので、結局、終始謎に包まれた女性である。


「今、詳しい事情は言わない。まずは、サイモアに殴り込んでからだ」


 しかし、話は慌てた様子で部屋に飛び込んできたバドに遮られた。


「おい、大変だ!ドクドリスの群れが襲ってきやがったぞ!」


「何!?」


 アランが窓から外を眺める。

 すでに、何匹かのドクドリスはレティシアに舞い降りていた。上空に飛んでいるドクドリスの群れも、肉眼で確認できる。


「城の兵士も何人か倒れてたみてぇだが……」


「それは……俺のせいだな」


 ヴェインズが肩をすくめた。


「また、あいつらが……」


 クローリアが顔をしかめる。


「本当に、どれだけ面倒に巻き込まれればいいんだ。ほら、何ぼさっとしてる。少し前、俺がサイモアに一度立ち寄った時、ザイクはすでにアストルの力の解析を進めていた」


 ヴェインズが大鎌を左手に構えた。 


「内部に潜入できたのか!?」


 シルゼンが驚いた声をあげたが、ヴェインズは面倒くさそうに首を横に振る。


「できるわけないだろ。俺はな──面倒だ、後にしてくれ。リエルナ、その状況でアストルが連れていかれたってことは、つまりどういうことか分かるな?」


「──あっ、まさか……」


 リエルナの顔が青ざめる。


「俺ひとりでサイモア内部に潜入することはできない。お前たちも、大事な王子様を助けたかったら協力しろ」


「よく分からないけど、アストルが危ないならもちろん協力するよ!」


 クローリアは両手に銃を構えた。


「よし──まずは、このうるさい鳥どもをどうにかするぞ」


 ヴェインズに続くように、クローリアたちも外へ飛び出した。


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