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アルタジア  作者: 桜花シキ
第7章 休戦協定
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緊迫⑥

 何か言いたげなアランだったが、全世界にこの会談内容が配信されていることを考えると、余計な口出しはできないようだ。もしここでシャンレルを庇うような真似をすれば、サイモアに加担している国が黙っているはずがない。この日の為なのかは分からないが、サイモアは戦力を拡大していた。

 そのうち侵略された国がほとんどで、彼らが心からサイモアに加担している訳ではないだろうが、何かあれば手を貸さねばならない状況だろう。


「だけど、本当にみんなを返してくれるのか確認してからだ。それに……」


「ああ、もちろんだ。君の目の前でお返ししよう。それから、サイモアまでの道中で、君の正体についても、ね」


 そして、ザイクは怪しく微笑んだ。





 その後、少し話してからアストルたちが部屋から出てきた。

 それを待ちわびていたかのように、廊下で言い争っていたクローリアが叫ぶ。


「アストル、行くな!」


 ザイクのボディーガード役の兵士に、飛び出したクローリアは取り押さえられる。

 いつも、ほとんど声を荒げることのない彼だったが、今回ばかりは違った。かつてないほど必死の形相で、兵士に掴まれた腕を振りほどこうとしている。


「お前は甘い……今ならまだ戻れる」


 そう言ったシルゼンを、ザイクが一瞬睨んだように見えた。


「ちょっと、待ちなってば!ほら、リエルナも!」


「アストル、あなたのことなら私でも教えられるの!だから……」


 泣き出しそうに顔を歪めたリエルナを見て、少し心が揺らいだ。

 しかし、それを振り払うようにアストルは首を横に振る。


「みんな、ごめん……。リエルナ、俺が行くのはそのためだけじゃないよ。クローリア、親父たちが帰ってきたら、後は頼む」


「部外者はここまでです」


 兵士がクローリアたちの行く手を阻む。

 制止も虚しく、アストルが立ち止まることはなかった。

 





 誰かが階段を下りてくる足音がする。

 サイモアの地下、昼も夜も分からないようなこの場所に人が入ってくるのは、1日1回の食事のときくらいだ。

 またそれだろうかと横になっていたルクトスは体を起こす。しかし、今日は違った。給仕の兵士ではない。護送兵2人とさらに、もうひとり──


「アストル……?おい、何でお前がここにいるんだ!」


 見間違えるはずのない息子の姿が、目の前にあった。

 目を見開いたルクトスは、格子戸から見える息子に近づく。ルクトスの顔は、なぜアストルがここにいるのかという困惑を語っていた。

 久しぶりに再開した父の無事を確認し、一時安心したアストルだったが、ここまで来る道中で聞かされた話。そのことについて、確かめておきたいことがあった。


「ごめん、親父。親父は……俺の正体知ってたのか?」


「正体?」


 ルクトスは状況が掴めず、眉間にしわを寄せる。

 本当に知らない様子のルクトスに、アストルは少し安堵した。


「知らないなら、いいんだ……」


 知っていて話してくれていなかったのなら、なぜなんだと問い詰めるところだった。しかし、父は知らない様子だ。

 だとしたら、父も知らないことだとしたら。それを知っても──

 息子だと、認めてくれるのだろうか?

 

「おい、待て!まだアストルに話が……」


 牢の扉の鍵が開けられ、ルクトスは久しぶりに外に出た。アストルと一緒にやってきた兵士がルクトスを取り押さえ、連れて行こうとする。


「親父……少し、ひとりにしてくれないか?」


「アストル……お前どうしたんだよ?」


「ルクトス王は、我々が責任をもってレティシアまでお送りいたします。ご安心ください」


「ああ、頼む。──親父、さっき捕まってたシャンレルのみんなも開放してもらったから」


「放せっての!おい、アストル……アストル!」


 抵抗するも、長い間ろくに食事も運動もしていなかったためか、体が言うことを聞かない。そのまま、ルクトスは地上へと引きずられるように連れて行かれてしまった。

 ルクトスが出ていったのを確認すると、アストルは壁に寄りかかり、そのままずるずると壁に背中をこすりつけながら座り込んだ。


「ごめん……俺も混乱してるんだ」

 

 サイモアに運ばれてくるまで、軍艦の中で実際のデータを見せられながら、自分の力のことを教えられた。

 だが、最初は理解できなかった。そんなことは、今まで一度だって考えたこともない。しかし、ザイクの導き出した解析結果はそう語っている。嘘なのではないかとも思ったが、その結果なら自分の力が何なのか、確かに納得がいく。それが真実だとしたら、どうしてそんなことになってしまったのか。

 どうして、そんなものがこの世界にあるのか──


「俺が……神石?」


 しばらく、ルクトスがいなくなり、もぬけの殻になった牢の中を見つめながら、アストルはじっと座っていた。


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