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アルタジア  作者: 桜花シキ
第7章 休戦協定
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緊迫④

「アストル君、やはり来たんだね」


 久しぶりに会ったアランは、少しやつれているように見えた。


「あの……アラン様、グレンのことなんだけど……」


 アランがピクリと反応する。やはり、本当のようだ。


「聞いたのかい?──その通りだよ。気にするな、という方が無理かもしれないが、協定中はそのことについてザイクに何か言われても気にしてはいけないよ。それが、君のため……そして、シャンレルのためだ。ここでは、一切私情は捨てて、一国の王子として臨みなさい」


「でも……」


「でも、ではないよ。グレンの心配なら、私が君の分までしておくから。いいかい?君の発言は、とても強い意味を持つ。それこそ、国を、世界を左右するくらいにね。それが国の頂点に立つ者の定めだ。今回の協定だが、話し合いは各国一名のみだけど、内容自体は世界中に配信されることになっている。世界中の人々が証人になるわけだ」


「ザイクの提案ですか?」


 アランはクローリアに頷く。


「一度言ってしまえば、後戻りはできない。私も始まってしまえば君を助けることができないから、十分注意するんだよ」


 アランとしばらく一緒に廊下を歩いていくと、ずらりと並んだ兵士たちが道を塞いでいた。こちらに気がつくと、兵士はアランとアストル以外の通行を妨げる。


「この先は、アラン様、アストル様、ザイラルシーク様3名のみしか入れません。お連れの方は、別室のモニターで中の様子を確認できますので、そちらに」


 不安げなみんなの顔がアストルを見ていた。そして、それぞれが思い思いに声をかける。


「アストル……危なくなったら、すぐに逃げるんだよ」


「アストル、ちゃんと帰って来てほしいの」


「くれぐれも、警戒を怠るな」


「気をつけてよー?」


 押し返されるクローリアたちを振り返りながら、アストルは軽く左手を振った。


「ああ、ありがとう。じゃあ、行ってくる」




 ギィ、と扉が開く。

 部屋の中では、ひとりの男が円卓に座ってアストルとアランが来るのを待っていた。

 白髪に赤い切れ長の瞳を持つその男は、アストルの姿を見るとニッコリ微笑んだ。笑っているのに、身にまとっている空気は非常に禍々しい。

 

「──やあ、君がアストル王子だね?会うのは、これが初めてか」


「ああ」


 彼がザイクなのだろう。アストルは身を堅くした。その様子を見て、ザイクは声をかける。


「まぁ、そう堅くならないでくれ」


 アランが先に席につき、アストルはザイクの正面に座った。アランは、ちょうど2人の間くらいの席にいる。

 アストルが席に着いたのを確認すると、アランは話を進め始めた。


「休戦協定だったな、ザイラルシーク?条件を聞こう」


「ふ……久しぶりに顔を合わせたというのに、随分と他人行儀だな」


 ザイクの反応に、アストルは首を傾げる。


「アラン様、知り合いだったのか?」


 アストルの問いかけに、アランは目を閉じてため息をついた。


「……幼なじみだよ。私とルクトス、そしてザイラルシークは」


「えっ!?そうだったのか……」

 

 アストルは何とも言えない表情を浮かべる。


「それなのに、どうしてお前は……。──今は会議中だ、私語は慎もう。話を戻すぞ」


 アランは言いかけた言葉を飲み込む。

 ルクトスなら、一発殴っていたかもしれない。そうアランは思った。本当なら、自分だってそうしてやりたい気持ちは山々だが、ここで不利な状況を作っては意味がない。

 ザイクは薄笑いを浮かべて話を続ける。


「そうだな、本題に入ろうか。私の方からレティシアに提示する条件は、そちらのアストル王子が条件を呑んでくれれば、特にない。グレン王子の件だが…彼が望めばいつでも戻れるのだがね。彼自身に戻る気がない。そちらに問題があるとしか思えないがね、アラン王?」


「……」


 アランは答えない。


「──それで、俺に対しては?」


 アストルは思い切って聞いてみた。やはり、何か企んでいる。シャンレルにだけ、条件をつけるなんて。こちらの応答次第では、レティシアもただでは済まないか。

 ザイクはアストルの方に視線を向けると、笑みを浮かべたまま話し出す。穏やかに見える微笑みの中には、何か鋭い棘がある気がした。

 

「ふふ……こちらが預かっているシャンレルの人間全員と君を交換すること、かな」


「なっ!?」


 確かに狙われてはいたものの、自分ひとりに人質全員をかけようと思うのだろうか?ザイクはシャンレルで見た、莫大な神石の力を探している。そのありかを聞き出すために追ってきていたのだろうが、人質全員を解放してまでのことなのだろうか。聞き出すためだけなら、ザイクはそこまでしない気がする。

 ザイクが何を企んでいるのかは分からないが、何を聞かれたところで神石は持っていない。自分は、ザイクの求めるものを何も持っていないはずだ。

 仮に、戦争に手を貸せなんて言われても、絶対に応じるつもりはない。


「おや、嫌だったかな?君ひとりと何人もの人間を交換する……普通ありえないだろう?まぁ、私の気が変わらないうちに決めて欲しい。ああ、それから……」


 ザイクは意味ありげに微笑みながら、アストルを眺める。


 ゾクリ。


 何かを見透かすようなその瞳に、ひどく恐怖を覚えた。背中を冷たい汗が伝う。何を言うのかとアストルとアランが見つめる中、ザイクの唇が動いた。

 

「私は、君の正体を知っているんだよ」


 ひと時、あたりに静寂が漂った。


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