大きすぎる力
目覚めたアストルの目に最初に映ったのは、見慣れない部屋の天井だった。
身体が重い。頭もズキズキする。
まだ意識がぼんやりとして、状況が飲み込めなかった。
ふと、意識を失う直前に聞いた声を思い出す。
──悪ぃな……アストル。
「そうだ、親父が……」
そして、シャンレルが軍艦に攻め込まれていた記憶が蘇った。
「攻撃されて……シャンレルは……。ちょっと待て、何で俺はこんなところにいるんだ?シャンレルは、どうなったんだよ?」
混乱するアストルの元へ、クローリアがやってきた。それから、もうひとり。確か……アラン王だったか?数年前に一度会ったことがある。
「アストル!よかった……目が覚めたんだね」
クローリアは、ほっとしたのか泣きそうな顔になっている。
「目が覚めてなによりだよ、アストル君。クローリア君が倒れる前で良かった。ろくに寝ないで1週間付きっきりで看病していたんだ」
アストルは、言葉を失った。
「……1週間、だって?」
アランは頷いた。
「君が寝ている間に、色々情報を集めた。まず、ショックな話からいこうか。……シャンレルはサイモアに侵略されたようだ。私の従者が調べにいって得た情報だから、間違いない」
「そんな……」
「それがまず悪い話。いい話もある。不幸中の幸いなのかもしれないが、見つかった死体の中にルクトスはいなかったようだ。とはいえ……犠牲者は多かった。勝手だが、彼らはこちらで丁重に弔わせてもらったよ」
「そう……か、ありがとう」
アストルは複雑な心境だった。
「……あれ?でも侵略されたのに、シャンレルに入れたのか?」
「ああ……侵略といっても、その国の機能を停止させて終わることもサイモアは多くてな。利益がある国はそのまま占領するようだが……シャンレルは、違うだろう?」
確かに、シャンレルにはサイモアが求めそうなものはなかった。だからこそ、尚更許せないのだ。
なぜ、シャンレルは滅ぼされなければならなかったのか。
「クローリア君の話ではルクトスが、確かめたいことがあると言って国に残ったんだったね?」
「はい。とても大切なことのようでした」
──やはり、あいつは真実を知ろうとしたんだな……
アランは、何かを思い出すように目を閉じる。
しばらくしてその目を開くと、アストルに言及した。
「アストル君、サイモアの前で力を使ったんだってね?ルクトスも忠告したそうじゃないか」
「それは、あの状況だったから……」
「忠告したのは元々私だ。アストル君、君に危険が及ばないようにと思ってのことだったのだよ?」
「え?」
その後を、クローリアが続ける。
「サイモアは神石を扱う能力の高い人間を集めているそうなんだ。それなのに、あれだけの力を使ったんだから……」
「ちょっと待てよ!俺は、神石なんて使ってない」
「それは分かってるよ。だけど、君を知らない人間はどう思うかな?」
アストルは黙り込んだ。
「今頃、サイモアは力の源を探しているはずだ。王子である君が行方をくらましているとなれば、真っ先に怪しまれるだろう」
確かに、シャンレルをいくら探したって見つかるはずはない。だって、ここに──
「もしかして、俺が余計な力を使わなかったら、サイモアが無駄にシャンレルを詮索しなかったかもしれないってことか?……俺のせいで、被害が大きくなったのか?」
クローリアはアストルをベッドに寝かせた。
「疲れてると、悪いことしか考えられなくなるよ。もう少し、眠った方がいい」
そう言って、クローリアたちは部屋を出て行った。
眠れるはずがなかった。
自分の行動の軽率さを呪った。
守るどころか、傷つける──
自分は力があるからみんなを守れる
そう信じていたのに
アストルは、生まれて初めて力があることに恐怖を覚えた。
また、この力のせいで、誰かが傷つくのではないかと…
自分のしてしまったことを後悔するアストル─
それもつかの間、
何やら、新たな人影が…
冒険が始まります!