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アルタジア  作者: 桜花シキ
第6の2章 陽月国─陽─
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休戦協定

 ザイクからの、突然の休戦協定の提案。相手は、レティシアのアラン王とシャンレルのアストルに対してというもの。応じれば、しばらくの間、レティシアに攻撃はしないし、アストル一行を狙うこともないという。

 さらに、条件次第ではルクトスたちも引き渡すというのだ。


「被害拡大は事実でも、戦力は増大中でしょー?情報屋の最新情報じゃ、世界のあちこちで戦争やって、領土広げてるって話じゃん」


 知らぬ間に連絡を受け取っていたらしいニトが、ザイクの言葉に意を唱える。


「情報屋か……これは、おもしろい。だが、被害を抑えられるならそれに越したことはないだろう?応じるかどうかは、君が決めればいい。ただ、その場合……ルクトスたちの身の安全は保証しないがな」


 落ち着き払った様子で、ザイクは答える。被害を抑えたい…誰が聞いても、表向きの理由だと分かるだろう。ザイクには、そんな理由がなくとも人質がいる。言葉よりも強力な、切り札を持っている。

 決めろと言ってはいるものの、これでは選択の余地がない。


「まぁ、今すぐに決めろとは言わない。期限は明日の朝まで。王子として、最善の選択を期待しているよ」


 そこで通信は途絶える。

 沈黙が広がる中、最初に口を開いたのはクローリアだった。


「絶対、何か裏があるに決まってるよ。アストル、僕は賛成できない」


 クローリアは、反対した。それも、もっともである。 

 しかし、アストルの心は揺れていた。


(俺も罠だって思う。でも、これで本当に親父たちが帰ってくるのなら……)


「会うだけ、会ってみないか?」


「アストル、ザイクが本当のこと言ってるのかなんて、分からないんだよ?ルクトス様やみんなのことが心配なのは分かるけど、僕は反対だからね」


「アストル……嫌な予感がするの」


 リエルナも心配そうにアストルの言葉を待っている。 


「でも、俺が行かなきゃ、親父や国の人たちが……。それに、レティシアにも被害が出るかもしれないだろ?」


「それでも……反対だ。君だって、わざわざ危険な場所に行きたいわけじゃないだろ?」


 ほぼひとつしか選択肢がないと分かってはいるのだろうが、クローリアはそうしろとは言わなかった。


「そりゃ、行かなくて済むなら、そうだけど……」


「君は生まれた時から重いものを背負ってるけど、逃げる選択をしてもいいんだ。そうしたからって、僕は君を責めたりしないよ」


「お前は昔から優しいよな。でも、俺は逃げたりしないよ……俺には、できない」


「優しいのは、君の方だよ……」


 クローリアは、アストルに背を向けると早足で去って行った。

 その背中をニトは見つめながら、その心中を察する。


「クローリア……。あたしたちの中じゃ、アストルと一番付き合いが長いもんね。心配してるんだよ」


「あいつは、いつも俺の心配してくれてるからな……。そんなに、気を遣わなくていいのに」


「大事な友達だからじゃない?ま、クローリアに限ったことじゃないけどね。特に、リエルナはもしかしたら、クローリア以上に心配してるかも」


「え、何で?」


 きょとんとした表情で首を傾げるアストルに、ニトはため息をつく。


「アストルは、あたし以上に鈍感かもね……。ま、とにかく、あたしたちは反対ってこと」


「俺も同感だ。お前がただで済むとは思えない」


「シルゼン!それと……」


「先ほど、司令官から話は伺った。私たちにも撤退命令が出ている。明日の朝、返事を聞き次第ここを離れるつもりだ」


 シルゼンと共に姿を現したイニスは、そう言った。


「本当ね?」


 その声の主は、天音だった。そうだ、一閃は無事なのだろうか。


「天音、一閃は?」


「大丈夫、生きているわ」


「よかった……」


 一閃は天音に介抱されるように横になっていた。ちゃんと息はしていて、今は眠っているようだ。

 ひとまず安心したアストルは、イニスに向き直る。


「明日の朝までには、結論を出す」


 しかし、その表情はもう答えを決めていることを明らかに語っていた。






 サイモアの作戦室には、ザイクとゼロだけが残っている。ザイクは、何か企むような笑みを浮かべていた。


「普通なら、ここでアランが何かしらしてくるだろうが……今は動けまい」


「情報屋が動き回っている気配がありましたが」


「アランが雇ったのだろう。こちらにとっては好都合だ。おそらく、グレン王子のこともかぎつけている。彼は、レティシアの抑止力だからな。まだ、役に立ってもらわねば」


 面倒なのは、アランだ。昔からそうだったが、あいつには相当警戒しておかないと、必ず自分より先回りしてくる。

 そのアランでも、実の息子をとられて動揺しないわけはないだろう。グレンはアランへの切り札。アランの子どもたちの中では、彼が一番つけ込みやすかった。

 彼は自分と似ているが、同じではない。彼は、まだアランの息子であっただけ恵まれている。


「アストル王子は応じるでしょうか?」


「応じるだろうな。話した感じが、ルクトスに似て感情的だ。そういうやつは、アランみたいなやつと違って扱いやすい。──ところで、例の解析は進んでいるか?」


「はい、順調です」


「そうか。こちらとしても、あの力が何なのかはっきりさせないことにはな」


「もうしばらくお待ちください。うまくいけば、休戦協定締結までには解析が終わるかもしれませんから」


「頼んだぞ。それから、休戦協定を結ぶ場所だが──」







「アストル、考えは変わらないんだね?」


 翌朝になって、クローリアが再度確認する。


「ああ」


「……分かったよ」


 クローリアは、まだどこか納得いかないような表情だったが、アストルの心は決まっていた。


「俺、ザイクに会いに行く」


この物語も、折り返し地点に入りました。ここまで書いてこれるとは思っていなかったので、読者の皆様には本当に感謝しています。最後まで、アストルたちの冒険にお付き合いいただければと思います。

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