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アルタジア  作者: 桜花シキ
第6の2章 陽月国─陽─
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知りたい答え

 一週間という期間の中で、久しぶりに戦いのない時間が与えられた。この短期間のうちに、随分と生活は変わってしまったものだ。シャンレルをあの後実際に見たわけでもないし、父や国民たちの安否も分からない。まだ、何も解決していないのだ。

 ここまで、クローリアは何も文句を言わないが、一番苦労しているのではないかと思う。俺と一緒にいるせいで、いつも危険と隣り合わせ。本当に、申し訳ない。


「クローリア、悪いな。俺のせいで、ずっとサイモアを警戒してるだろ?」


 クローリアは、そんなことかと言って笑う。


「別に君のせいじゃないよ。それに、今は安全そうだ。アストルも、久しぶりにゆっくり休みなよ」


「なぁ、クローリア。お前は俺のこと、変だと思わないのか?」


「変?何が?」


 クローリアは首を傾げる。


「俺の力だよ。やっぱり、世界中探しても俺みたいな人はいなかった……。自分でも、こんな訳の分からない力、怖いんだよな」


「アストル。僕は、アストルの力が何であれ、今までと何も変わらないよ。君は、僕に居場所をくれた。友達だって言ってくれたし……。君がいなかったら、僕はあの時死んでたはずなんだ。確かに、君の力は強すぎるかもしれない。だけど、怖いことばかりだと思わないでよ」


「……ありがとう」


 その後、ひとりになったアストルは考えていた。

 クローリアは気にしないと言ったが、おそらく自分自身が一番気にしている。自分のことなのに、分からない。自分の存在が、分からない。


「アストル」


 ぼんやり座っていたアストルに、突然声がかけられた。


「リエルナ!どうしたんだ?そっちから話しかけてくるなんて、珍しいじゃないか。もしかして…話す気になった、とか?」


「まだ、全部は話せないけど……少しだけ、話しておこうと思って」


 リエルナは小さく頷くと、アストルの隣に腰を下ろす。


「私、アストルの知りたい答え、持ってるから」


 リエルナの口から出たのは、そんな言葉だった。

 何となく、リエルナならば知っているような気がしていたが、本人の口から聞くと、やはり少し動揺する。


「俺の?じゃあ、この力が何なのかも?」


「あなたの知りたいこと、たぶん全部」


「俺が、知りたいこと……」


「私が話さなかったこと、半分は私のことだけど……もう半分はアストルのことなの」


「俺のこと?」


「私は、アストルが自分自身を見失ったとき……今のままじゃ進めなくなったとき、あなたを導くように頼まれたの」


「頼まれた?誰に?」


「それは、まだ秘密。でも、すぐ分かるの」


 リエルナはそれだけ言い残すと、去って行った。

 残されたアストルは、リエルナの言ったことを何度も頭の中で再生し直す。


「俺の知りたいことを知ってる……」


 それを知れば、このモヤモヤも晴れるのだろうか?それとも──





「ニト、何してるの?」


 小屋の方に向かったリエルナは、言い争うニトと一閃を発見した。声をかけると、ニトはリエルナの手を引っ張って、話の輪に引き入れる。


「あ、リエルナ!ちょーど良かった。リエルナからも言ってやってよ。天音さん、毎日食事のあとどっか行っちゃうし、帰ってくるのも遅いし……きっと、禁忌の前だから緊張してるんだって。こういうときは、一閃さんが何か天音さんにしてあげないと!」


「そんなこと、なぜ俺が……」


 眉間にしわを寄せ、目を細める一閃。しかし、おかまいなしにニトは続ける。


「天音さんのこと、好きなんでしょ?」


「ばっ!?俺と天音はただの幼なじみだ!」


 ニトの言うことは的外れなことが大半なのだが、ごくたまに痛いところを突く。今回ばかりは図星だったらしく、会ってから初めて、一閃が慌てる様を見た。


「ふ~ん?でも、天音さんは一閃さんのこと好きだと思うなぁ」


「勝手な想像だ……」


「まぁ、それはいいんだけどさ。幼なじみが死ぬかもしれないってときに、怖くない人なんていないよ。あたしも、クローリアに何かあったら嫌だもん。リエルナだって、アストルに何かあったらそうでしょ?」


「うん、もちろんなの」


「ほらぁ!」


「……何かと言われてもな」


 一閃は、困ったような顔をする。


「お守りとかは?」


「……作れないこともないが、ろくな材料がない」


「だったら、これ、使って欲しいの」


 リエルナは、自分の髪飾りを外した。栗色の髪が、風に舞う。


「リエルナ、それあげちゃったら、力が使えなくなっちゃうよ?」


「大丈夫なの。なくても、大丈夫なの。だから、はい」


「確かに、美しい神石だが…お前が力を使えなくなるのは困る。珍しい、回復術が使えるのだろう?失うには惜しい力だ」


「力は、なくならないの。だから、大丈夫」


「リエルナ、もしかして、それって……」


「それも全部、後で話すの」


「……大丈夫なのか?」


「うん」


 少しためらった後、一閃はリエルナから神石の髪飾りを受け取った。


「……ありがたく、もらっておく。だが、どういったお守りを作ればいいのだろうか……」


 はじめは乗り気でなかった一閃だったが、凝り性らしい。ぶつぶつ言いながら、翁の小屋に入っていく。しばらくして出てきた一閃の手には、何やら工作道具のようなものが握られていた。


「なんか、すごいのできそうだね」


「……ニトは、何かお守り持ってるの?」


「あたし?う~ん……やっぱり、これかな。水竜の笛。シャンレルの人間なら、みんな持ってて普通なんだけど……あたしは特別でしょ?この笛だって、クローリアが手伝ってくれなかったら作れなかっただろうし。この笛には、いろんな思い出があるから、あたしにとっては大切なお守りみたいなものなんだ」


「お守りって、やっぱり効くの?」


「それは、どうだろ?でも、お守りって魔法みたいなものだと思うんだよね。持ってる人に、何らかの影響は与えるだろうから。こもってる思いが強ければ強いほど、持ち主を守ってくれるんじゃないかな?」


「思い……守る……。うん、そうだね」


「リエルナ?」


 ほどけた栗色の髪が、柔らかく風になびく。髪を下ろしたせいか、いつもとだいぶ雰囲気が違う。元々、不思議な空気を纏ってはいたが、今はもっと……。

 ニトに神石を使うほどの力はない。それゆえに、神石の力を本当に理解することは難しいが、気になっていた。

 リエルナを取り巻く不思議な空気が濃くなったと感じ始めたのは、あの髪飾りを失ってからだったから……。


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