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アルタジア  作者: 桜花シキ
第6の2章 陽月国─陽─
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禁忌の代償

 2人についていった先にあったのは、岩で塞がれた薄暗い洞窟だった。入口の大岩を軽々と除けてしまった青年には恐れ入る。


「なんか、メルのこと思い出すなぁ……」


 メルは、危険だからとバドに預けたままだ。ニトは思い出したのか、少し寂しそうな表情を見せる。クローリアは、そんなニトを元気づけようと話しかけた。


「メルは大丈夫だよ。バドさん、別な仕事があるって言ってたけど、何だろう?」


「ボスが動くんだから、何か重大任務なんだよ、きっと」


「早く入れ」


 ぶっきらぼうに青年は言い放つ。女性が、アストルたちを先導するように洞窟の中に入って行った。アストルたちがそれに続き、全員中に入ったところで青年はまた入口を塞いだ。真っ暗になって何も見えなくなったが、すぐに明かりが灯る。先導していた女性が松明に火をつけたようだ。


 奥へ進むと、少し開けた場所に出る。生活用品が置いてあるところを見ると、2人はここを拠点にしているのだろう。女性は全員いることを確認して、火を広場の中央に運んだ。


「お前たちが少しでも不審な行動をすれば、それ相応の対処はさせてもらう。へたな行動はしないことだ」


「ああ、大丈夫だ」


 アストルが答えると、青年は腰を下ろした。女性の方も、それに倣う。

 とりあえず、アストルたちも腰を下ろした。地面は少しひんやりしていて気持ちがいい。だが、ここに来たのはゆっくり休憩するためではなく、この2人が探していた生き残りなのか確かめるためだ。とはいえ、いきなり聞いても答えてはくれないだろう。まずは、こちらの事情を詳しく話す。


 話はシャンレルからはじまり、月地方の話まで。女性の方は、時々驚くような表情を見せたが、青年の方は終始微動だにしなかった。


 話が一通り終わると、女性の方は理解を示す。


「私は、信じてもいいと思うわ。ここから、サイモアを追い出してくれるなら、力を借りても……」


「俺は、こいつらの言っていることが正しかろうが、そうでなかろうが、関係ない。俺は、自分の力だけで何とかする。お前がそいつらと一緒に行きたいのなら、止めはしない。ただし、俺は別行動をとらせてもらう」


 しかし、青年は冷たく言い放った。青年の言葉に、女性が声を荒げる。


「あなたをひとりで行かせられるわけないじゃない!何のために、私たちはこんなに必死になって探してきたの……?」


「……悪かった」


 女性の悲しげな表情に戸惑いながら、青年は謝った。

 青年は、気持ちを落ち着かせるためか、ひとつ大きく息を吐いて、改めてアストルたちに向き直る。


「力を貸してくれるというのは、喜ぶべきことなのだろう。しかし、最終的にサイモアをこの地から追い出すのは、俺自らの手で……。それが、仲間たちへのせめてもの弔いだ」


 青年は目を閉じた。きっと、仲間たちのことを思い出しているのだろう。仇を討ちたい、そう言っていたのは彼だけではなかった。カルラもルアンも、そして京月も。あの後、彼らはどうしたのだろうか?サイモアとの決戦の前に、もう一度会いに行ってみよう。そう、アストルは思った。


 青年は、意を決したのか自分たちの名前を明かした。


「俺の名は──一閃=エルトラム。そっちは、天音=エルトラムだ。同じエルトラムの名を持つが、俺の家と天音の家は違う」


「エルトラムの禁忌……という話を聞いたのだが、それと関係あるのか?」


 シルゼンの問いかけに、一閃はいささか驚いたような顔をする。


「そこまで知っているのか?一体、誰から聞いたのか……。そうだな、エルトラムが2つに分かれたのは、その禁忌を扱うためだ」


 一閃は、傍に置いていた刀を持ち上げた。鞘から抜くと、その刀身は金色に輝いており、太陽の光を彷彿とさせる。確かに美しいが、正直言って──


「切れ味はよくない。戦闘には向かない、飾りだけの刀だ。普通に使えば…の話しだがな」


 そう言って、刀身を鞘に収める。


「これは俺が生まれた、攻のエルトラム一族に代々伝わる【生命転化の宝剣】だ。俺の前は、一族の長だった俺の父が持っていた」


「攻のエルトラム?生命転化の宝剣?」


 知らない言葉が並び、アストルは首をひねった。


「さっき、エルトラムは2つに別れていると言ったわね?そのひとつが、一閃の出身【攻のエルトラム】なのよ。一閃たちは、戦いのとき主となって前線で戦う一族だったわ。それと対をなすのが、私の生まれた【守のエルトラム】一族。私たちは、どちらかといえば後衛からの支援をする役回りだったわね」


「なるほど……。それで、宝剣とかなんとかっていうのは?」


「それが、禁忌を使うために欠かせないものだ。先ほど戦闘には向かないと言ったが、禁忌を使う時は話が違う。禁忌、生命転化は──」


「生命転化は?」


「──自分の命と引き換えに、強大な一撃を発する技だ」


「えっ、それを使う気なのか!?」


 今の話の流れでいくと、サイモアを追い出すために、一閃は命をかけるということになる。禁忌というものには、やはりそういう代償がついているのか。

 心配するアストルたちをよそに、一閃は語る。


「もちろん、死なずに済む方法はひとつだけある」


 一閃は、天音の方を見た。


「生命回帰……私の一族は、生命転化により離脱した魂を呼び戻す技を持っているわ。すぐに使わないと、やはり手遅れなのだけれど……。でも、今のままじゃ道具が足りなくて、その技が使えないのよ」


「そのために、ナントカって木を探してるのか?」


「ナントカじゃなくて、生命の大樹だよ。アストル、それくらい覚えてても……」


「あーあー、ど忘れだって!」


 またも、クローリアの説教が始まりそうになり、アストルは耳をふさぐ。


「……お前たち、誰から聞いた?」


 あまりに詳しく知っていることに疑問を持ったらしく、一閃はこちらを睨みつけた。その鋭い眼光には、殺気が宿っている。慌てて、クローリアが話の出所を口にした。


「川を渡るときに乗った小舟の船頭の方に……」


 天音は、それを聞いて納得したように頷いた。


「おそらく、翁のことね」


「2人を連れて逃げたって言ってたぞ」


 アストルが、さらに続ける。一閃も、それで確信したようだ。


「やはり、翁だ。口が軽いな……他に何か言ってなかったか?」


「……その木を見つけたら、燃やしてほしいって。禁忌を、使ってほしくないみたいだった」


「余計なことを……」


「翁が心配してくれてるのは、分かってあげましょう?禁忌の道具を作るのは、翁なんだから…いろいろ、思うこともあるのよ。舟に乗った客人に話すことで、気が楽になるのかも──」


「……天音。翁の舟、覚えているか?」


「え?……よくは、思い出せないけれど」


「お前たちは?」


「えっと、ちょっと……狭かった?」


 ニトは、うんうん悩んだ末にそう答えた。そういうことを聞いているのではないと、みんな思っただろう。案の定、ニトの答えは一閃にあっさりと流される。


「そういうことを聞いてるんじゃない。何で作られていた?」


「何でって……木でできてたけど。え、まさか──」


 ムスッとしながら答えるニトだったが、さすがに感づいたようだ。


「その可能性もある。翁なら、やりかねない。お前たちが舟から降りたところまで、案内してくれ。日が出る前の方がいい」


 休息もそこそこに、一行は洞窟を後にした。目の前に舞い降りた、ひとつの可能性に賭けて──


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