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アルタジア  作者: 桜花シキ
第6の2章 陽月国─陽─
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己の信じる道

「隊長!兵士が2人、反逆者と思われる者たちにやられました!」


「早く救護班に回せ!」


「はっ!」


 サイモア兵にそう指示を出していたのは、マクエラで会った、あのイニスだった。彼女が隊長を任されているのは、シルゼンがいなくなった第三隊。彼女は、この役に就くにあたり非常に迷った。彼女の中には、いくら裏切り者だとはいえ、シルゼンこそこの第三隊の隊長であるという思いがある。そもそも、彼女がサイモア兵になろうと思ったきっかけは、シルゼンに憧れを抱いていたからだった。シルゼンのいる第三隊に配属が決まった時のことは、今でも覚えている。


──そして、間もなくシルゼンが裏切った日のことも。


「シルゼン隊長……」


 シルゼンの立っていた場所に、自分がいる。彼の見ていた景色を、私は見ている。今までは、隊長の命令に従って動いていればよかった。しかし、こうして指示を出す側に回ってみると、非常に頭を悩ませる。

 マクエラから引き揚げた後、私はすぐにザイラルシーク様の命令により、隊長として陽地方の防衛を任された。陽地方は、我々サイモアが支配下に置く土地。来てみるまで、私もその現状をあまり知らなかった。実際に自分の目で破壊された家屋を見て、少なからず胸は痛んだ。それは、マクエラのことも思い出させる。数多の悲鳴が聞こえてくるようだった。だが、サイモア兵たちに指示は出さなくてはならない。反逆者を殲滅せよ──と。


「隊長は、何をお考えだったのですか……?」


 しかし、考える暇もなくサイモア兵たちが次の指示を待っている。イニスは、今考えていたことを振り払った。


「ザイラルシーク様は、世界を争いのないものにしようとなさっておられるのだ……私もやらねば」







「ひどい有り様だな……」


 老人と別れた後、サイモア兵たちがいないことを確認して、小さな集落だったような場所に立ち寄る。見事に破壊され、人が住んでいる様子はない。シルゼンは、悲しげに目を伏せた。


「サイモアは、やはり倒さなければならない」


「そうだな。あ、でも……弟がいるんだろ?」


 遠慮がちに、アストルは尋ねた。


「……そうだな」


 俺の弟がシャンレル侵攻の際にザイクに同行していたドガーだということは、おそらく知らないだろう。ドガー、思えば俺がザイクに従うことになったきっかけはあいつだったな。あいつは悪くない。こうなってしまったのは、すべて俺の責任だ。サイモアは倒さなければならない。だが、あいつだけは助けられないだろうか…。今頃は、ザイクの言っていた通り、俺のことを恨んでいるだろう。俺は今まで、どれほどの罪を重ねてきたのか分からない。しかし、ドガーはその輪廻から抜け出せなくなる前に、助けてやれないだろうか。


「シルゼン……やっぱり、弟が心配なんだろ?」


「弟の件はきちんと決着をつける。過去の束縛もろともな」


「過去の……?」


「こちらの話だ。先を急ぐぞ。この土地の問題を解決したら、いよいよサイモアに乗り込むのだろう?俺の心配をしている余裕はないはずだ」


「あ、ああ……」


 俺も、覚悟しておかなければな。

 アストルに忠告しつつ、シルゼンは自分に言い聞かせた。


「人の気配は……アストル、後ろ!」


 あたりの様子を確認していたクローリアが、突然大きな声を出す。


「え?──うわぁ!?」


 振り返ったアストルの首めがけて、鋭い刃が迫る。クローリアのおかげで、間一髪、アストルはそれをかわした。


「クローリア、こっちにもきたよ!」


 クローリアの方にも、短刀を握りしめた女性が攻撃を仕掛けるが、こちらの方も、気づくのが早かったので助かった。


「ちっ……鋭いな。いつものサイモア兵じゃない」


 アストルに斬りかかってきた男は、間合いを取るため一歩下がった。アストルも態勢を立て直す。


「サイモア兵?俺たちは、エルトラムって一族の生き残りを探しにきただけだ!」


「エルトラムだと……?なぜ、お前がその名を……」


 アストルの口から出た、『エルトラム』という言葉に青年は反応した。その様子に、クローリアが何かを感じ取る。この二人は、もしかしたらあの老人の言っていた一族の生き残りなのかもしれない。よく見れば、女性の方は老人が言っていた通り、長い黒髪をひとつに束ねている。そんな人間は山のようにいるだろうが、ほとんどなにもかも破壊されて人の気配がないこの土地でなら話は別だ。サイモア兵には見えないとすると、おそらくそういうことなのだろう。


「月地方の安倍家をご存じですか?」


 クローリアは、アストルに刃を向ける青年と、自分の目の前に立つ戦闘態勢の女性に向かって言った。すると、思った通りの反応を見せる。


「安倍……会ったのか?」


 クローリアは頷くと、その証明のために念のため京月からもらっておいた神布を取り出した。女性は警戒しながら、それを眺める。


「それは、確かに安倍家の神布……本当にサイモア兵ではないのかしら?」


「まだ、確信ではないが……」


 しばらく考えていたようだったが、青年は刀を収めた。


「話を聞こう。ただし、もし何か不審な行動をとれば、その時点で命はないと思え」


「私たちは、ここで倒れるわけにはいかない。その時は、容赦しないわ」


 2人は本気の目をしている。アストルは頷いた。


「それで構わない。ありがとう」


「ここにも、そろそろ巡回のサイモア兵が来るはずだ。場所を移そう」


 そう言って、2人はついてこいと目で合図した。


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