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アルタジア  作者: 桜花シキ
第6章 陽月国─月─
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雲に隠された月

「俺は──」


 アストルが話し出そうとしたときだった。突然、怒号とともに誰かが転がり込み、京獄に飛びつく。


「貴様ら……京獄に何の用だ!」


 アストルたちは目を丸くし、ぽかんと口を開けたまま固まった。

 いきなり怒鳴ってこちらを睨んでいるのは、肩より伸びた美しい黒髪の少女だったのだ。外見からは予想もしない反応に、どう返してよいのやら分からない。


「お京殿」

 

 京獄は冷たい視線を少女に送った。少女は慌てて口に手をあてると、にっこり笑いながらアストルたちに向き直る。 

 だが、どうしてだろう?ひどく殺気がこもっている気がするのは……。


「失礼いたしました。私は、京と申します。京獄様の許嫁ですので、京獄様に近寄る輩がいると、どうしても反応してしまうのですよ」


「別に、あたしたち何もしないって」


 ニトがそう言うも、お京は首を横に振る。


「人は信用なりません。京獄様は、私が守ります!」


 興奮気味のお京を引き離し、京獄は諭す。


「お京殿、いい加減になさって下さい。あなたを待たせたことは謝ります。しかし、このままでは話が進まない。──牛丸、いるんだろう?入ってこい」


「へい、お見通しで。すんません……あっしの手には負えませんで」


 廊下で隠れるように聞いていた男性が、頭をぺこぺこさげながら現れた。


「構わん。追いかけろとまでは言わなかったからな。お京殿、あまり牛丸を困らせないでいただきたい」


「むっ、分かっておりますけど……けど……」


 お京は牛丸に鋭い視線を送る。京獄が牛丸を気にかけていることに不満ありげだ。


「うへぇ、恐い恐い……」


 牛丸は、さっと視線を逸らした。


「お京殿、牛丸と別な場所で待っていてはもらえませんか?今日は、ちゃんと参りますよ」


「いつもそうですのね……しかし、分かりました。京獄様を困らせたいわけではありませんもの。牛丸、行きますよ」


「へいへい。それじゃ、みなさんごゆっくり~」


「牛丸!早く来なさい!」


 お京に急かされながら、牛丸は部屋の外に出て行った。


 出て行ったのを見届けると、京獄は頭を下げて謝った。


「申し訳ない。お京殿は、私の許嫁でね……遠縁の血族なんだ。口はああだが、優しい方でね。どうか許していただきたい」


「ああ、ちょっとびっくりしたけど、別に気にしてないよ。──自己紹介の途中だったっけ。俺は、アストル。一応、シャンレルってところの王子だ」


「王子?これはたいへん無礼を。しかし、申し訳ないが、シャンレルという国は存じ上げない。私は外の世界に疎くてね」


「シャンレルは小さな人工島だから、結構知らない人はいると思うよ」


「そうか。──アストル王子……あなたは……」


 京獄は、目を細めてアストルを見た。何か見透かすように。


「俺が、何か?」


「……いや、そちらの方々は?」


「僕は、クローリアです。こっちがシルゼンで、そっちがニト。それから、リエルナ」


 リエルナは、ぺこっと頭をさげた。リエルナの前で、京獄の視線が止まる。

 しばらく、アストルとリエルナを交互に見てから、京獄はふっと表情を崩した。


「ふ……面白い客人だな。それで、用件はなんだろうか?」


「実は──」


****


「それで、あの者たちは、どうしたのですか?」


 日が傾く頃、アストルたちと話を終えた京獄は、約束通りお京に会いに来ていた。2人は向かい合うように座っていたが、お京は先ほどと打って変わって真剣な表情をしている。

 京獄は、アストルたちにサイモア討伐の協力を頼まれ、断ったことを話した。


「だが、泊まるところもなさそうだったからな。今夜は泊まっていってもらうことにした」


「なっ、私も泊まっていきます!」


 お京が身を乗り出す。しかし、京獄は悲しい表情で制した。


「お京殿、ご両親が心配なされる。──ただでさえ、あなたは一度多大な心配をかけておられるのだから」


 お京はそれを聞いて座り直す。しばらく沈黙が走った。

 沈黙の後、やはり悲しげにお京が口を開く。


「それは、あなたも同じでしょう。あなたに関しては、今なお心配がつきまとっています」


「まだ、問題ないさ」


「しかし、そう長くは保ちますまい……まだ、隠し通せるのですか?」


「ああ……まだ、隠し通さなくてはな。あいつらを、追いつめるまでは」


「あまり無理のないよう。あなたに何かあれば、あの方に顔向けできませんからね……」


「ああ……」


 2人の顔には、深い悲しみが張り付いていた。


****


「ニト、情報なかったの?」


 今晩泊めてもらえることになった部屋には、布団というものが5人分敷かれていた。

 その部屋で、クローリアはニトに尋ねる。

 先ほど京獄に協力を頼んで断られた際、京獄に術を扱う力がないと聞かされたからだ。クローリアの問いかけに、ニトは頬を膨らませる。


「情報屋にも、ランクがあるんですー。ランクが低いと、重要な情報は預けてもらえないの。あたしは、術者のいるところとしか、教えてもらってないんだよ。詳しい情報は、ここにいるベテランの先輩が持ってるはずなんだ」


「他に術者がいないかとかも、情報がないとね。で、その先輩は?」


「だいたい目星はついてるよ。コンタクトがとれたら、みんなにも教えまーす」


 ニトは、任せなさいというが、どこか頼りなかった。

 しかし、今はニトに頼るほかないだろう。京獄から聞いた話では、むやみに外を歩き回っては危険な状況下らしい。

 この土地にかなり詳しく、抜け道でも知らない限り、移動は困難だ。


「ニトに任せるしかないな。焦っても、仕方ないし」


 アストルは布団に横になった。


「ゆっくりで、いいの」


 突然、リエルナがそう言った。

 リエルナは、珍しく難しい顔をしている。いつもニコニコしているのに、どうしたのだろうとアストルは疑問に思った。


「リエルナ、どうしたんだ?」

 

 心配してアストルが起き上がる。


「──何でもないの」


 しかし、リエルナはそれだけ言うと、布団を頭まで被って黙ってしまった。

 本当に変だとは思いながらも、仕方なくアストルたちも横になる。


 リエルナは、布団の中で目を開けていた。

 そして、ずっと考えていた。この旅に自分が同行してきた理由を。



──リエルナ、お前には話しておこう


──辛くても、最後までこの仕事はやり遂げてほしい



──彼は、知らなくてはならない

──これは私の勝手な考えだが、知らないまま彼は戦い続けることができなくなるだろう


──その時は、お前が導くのだ


──知った上で、彼が何を選択するかは分からない


──だが、私は彼の選択に従おうと思う


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