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アルタジア  作者: 桜花シキ
第5章 情報屋ハト
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新大陸へ

 クローリアの話が終わり、しばらくみんなは黙っていた。


「クローリアって、意外とバカだよね」


 横になっていたニトが、沈黙を割く。


「あ、それは俺も思う」


「まぁ……多少はな」


「私もそう思うの」


 それに続くように、なぜかクローリアは一斉攻撃を食らった。


「え……いや、うん……確かに僕は馬鹿だけど……」


 アストルは分かってないなという顔をして、ため息をついた。


「そういうことじゃないっての。何でもひとりで背負おうとするところを言ってるんだ」


 思わぬ反応に、クローリアは一瞬頭が働かなくなった。自分では、何を背負い込もうとしているのかまったく分からない。


「あー……分かってないな。じゃあ聞くけど、どうしてその話黙ってた?誰にも話さないで、ずっとひとりで悩んでたんだろ?俺のことにしてもそうだ。お前は、俺のこと守らなきゃって随分思ってるみたいだけど、そこまで思いつめるなよ。お前は賢いよ。昔っから、そう周りに言われ続けてきただろ。お前も真面目で器用だから、その期待に応えようと頑張りすぎるとこがあるんだよな」


 その意見に、ニトも同意する。


「あたしも同じこと思ってたよ。クローリアは真面目でいい子だって、みんな言ってた。言われれば言われるほど、クローリアは無理するんだ。この際だから言っておくけど、クローリアはひとりで全部守れるほど強くないよ」


「それは……分かってる」


「分かってないよ。今だって、どうすれば強くなれるのか考えてるんでしょ?」


「それは……」


 図星だった。

 力がないことは分かっている。ならどうすれば、みんなを守れるだけの力が手にはいるのか。ずっと、考えていた。

 しかし、そんなクローリアに、ニトは言う。


「無理だよ。悔しいけど、限界ってあるんだ。……あたしは、嫌ってほど分かるから」


 ニトは、ぎゅっと拳を握った。

 元々、平等に能力は与えられていない。痛いほど、ニトはそれを経験してきた。だからこそ、人間に限界があることをよく知っている。

 しかし、そんな中で新たに見いだせるもの。限界を認めることで、見えてくるものもある。


「でも、やれないのとやらないのは違うと思うんだ。それにしたって、やり方はあるけどね」


 ニトは、決して自分の人生を悲観してはいなかった。

 あらゆるものを、持っていない。なら、何なら持っているのだろう?持たないものを望むより、持っているものを何かに使うことはできないのか。


「俺は、偶然こいつで空を飛んでる時に、ニトを助けたんだ。ちょうどいいように、任地で見つけた解毒剤も持ってたしな。んで、回復してみりゃ、ニトは情報屋になりてぇとか言い出しやがった!ニトは、情報屋になれるような人材じゃねぇ。まともに考えりゃ、こいつは情報屋になんかなれやしねぇよ。だが、俺はこいつの強い意志と──ある能力をかった!」


「あはは……誇れるようなもんじゃないけどね」


 ニトは、苦笑いを浮かべる。


「どんな能力なんだ?」


 アストルは首を傾げる。バドは、少し溜めてから言った。返ってきたのは、予想していなかった答え。


「──悪運、だな」


「え……」


「ものはなんでも使いようってな。たとえば、何か大事なことを決めねぇとって時、悪運もちのニトに選ばせりゃ、かなりの確率でやべぇ方を選ぶ。だったら、その逆を選べばうまくいくってな」


「そんな、適当な……」


 クローリアは眉間にしわを寄せるが、バドは気にせず豪快に笑う。


「がっはっは!もちろん、いつもってわけじゃねぇさ。毎回、当たるもんでもねぇしな。ただ──人間、多少適当な方がうまくいくこともあんだぜ?」


 バドは、クローリアの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。まるで、子供を扱うように。今まで、そういう風にされたことがないクローリアは、困った表情を浮かべる。


 だが、悪い気はしなかった。


「お前さんは、ちゃんとした子供をやれなかったんだよ。わがままの言い方も、知らないんじゃねぇか?──もうちょい、肩の力ぬいて生きな。お前さん、今のままで自分が苦しくねぇのか?今までずっと、人のためを考え続けてきたんだ。そろそろ、自分のこともちゃんと考えてやらねぇとだぜ」


「自分の……こと?」


「まぁ、焦らなくてもいいさ。自分が生きやすい生き方を、ゆっくり探していけばいい。長い旅なんだ、終わるまでに答えは出るさ。それを、一緒に探してくれるやつらもいることだしな」


 みんな、それに頷く。


「そういうこと。──あと、たぶんクローリア勘違いしてるから、ちょっとついてきて……うぇぇ……」


 気分の悪そうなまま、ニトは奥の小部屋にみんなを案内する。

 扉を開けると、中には人間の子供がすっぽり収まるくらいの水槽がひとつ置かれていた。斜面を作るように砂が敷かれており、完全に水で満たされているわけではない。

 その中で、何か生き物が動いている。


「じゃーん!」

 

「え、もしかして……」


 クローリアは、目を見開いてその生き物を見た。その生き物は、クローリアの姿を見つけると、しばらく首を傾げてから、思い出したのか近寄ってくる。


【キュウ!】


 その生き物は、懐かしい声で鳴いた。


「メル!無事だったんだ……」


 水槽に近寄って確認する。


【キュウキュウ!】


 メルだ。間違いなく。


「メルも、一緒に助けてもらったんだよね」


【キュウ!】


「はは……本当にメルだ。よかった……」


 クローリアは、背負っていたものが、少しだけ軽くなった気がした。







「そういえば、どうして情報屋に?」


 次の大陸に近づき、そろそろ着陸態勢に入る。その前に、聞くのを忘れていたことを思い出した。助けてもらったから、という理由だけではないだろう。

 ニトは、着陸に備えて何とか起き上がり、椅子に取りつけられたベルトを腰に巻きながら、それに答えた。


「あたし、シャンレルじゃ結構ドジで有名だったじゃない?こんなこと言うのもあれなんだけど、小さい国だったからみんな分かっちゃってるし……。クローリアはそれでも一緒にいてくれたけど……みんながみんな、そうじゃないから。ちょっと、息しづらかったかな。──あたしのこと誰も知らない土地をまわって、人の目を気にしないでさ…歩いてみたくなったんだよ。今はね、すごく楽しいんだ。はじめはそんな理由だったけど、今は本当にこの仕事が好きだし、誇りも持ってる」


「がっはっは!いい面になったな、ニト。それだけ言えりゃ、立派に情報屋だ」


「だからさ…せっかくひとつ悩みがなくなって軽くなったんだから、今度はクローリアに楽しいって思って生きてもらいたいんだ」


「……うん」





 クルッポー三号は高度を下げていき、やがて水面に着水した。陸に十分な場所がとれないときは、水面にも停められる造りになっているようだ。


「さて、俺はここまでだ。別な仕事が入っちまってるんでな」


 アストルたちを運ぶと、バドは再び上昇し、どこかへ飛んでいく。


「──よし、行こう」


 目指すは、和の大陸にあるという陽月国・月地方。協力国を求めて世界を巡る旅は、この大陸で最後だ。

 





 アストルたちが新たな大陸に足を踏み入れた頃、バドはとある人物と連絡をとっていた。


「──よう、王子さんたちは無事に送り届けたぜ」


「すまないな、ありがとう」


「なぁに、たいした仕事じゃねぇさ。──あんたの依頼も、しっかりやらせてもらうから心配すんな」


「すまない、よろしく頼む」


「ああ、じゃあな──アラン王」


 連絡が途切れた後も、アランはしばらく通信機の傍から動けなかった。

 アストルたちを送り届けることとは別に、アランは情報屋に仕事を依頼していた。

 連絡が終わると、アランは廊下を行ったり来たりと、珍しく焦った様子を見せている。どんなことでも、ある程度何とかできる自信はあった。

 しかし──


「お前は、どこに行ったんだ……グレン」


──グレン王子、行方不明


 仕事で少し出かけていったきり、帰ってこない。仕事先に行って聞いてみても、もうグレンはここにはいないという。

 すっかり動揺したアランは、情報屋に依頼することにした。彼らなら、グレンを探して連れ帰ってくれると信じて。


「あいつにまで、手を出したのではあるまいな……」


 アランは拳を握った。

 


──世界は、語るべきときに向かっている


──リエルナ、ちゃんと約束を守ってくれているだろうか?


──あの者に、伝言を残してくれているだろうか?



──彼は知るだろう

──そして、何を思うだろう



──彼は、きっと自分という存在に疑問を抱くことになる



──その答えを、あの者なら教えられるはずだ


いよいよ協力者を求める旅も終盤です。そして、アストルを取り巻く世界の真実も確実に動き出しました。

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