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アルタジア  作者: 桜花シキ
第5章 情報屋ハト
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あの日、守れなかった君へ①

 バドに連れられてやってきたのは、切り立った岩のない、少し開けた場所だった。そこに、大きな白い塊が置いてある。その左右には、金属製の鳥の羽のようなものがくっついていた。


「これが、空飛ぶ乗り物──クルッポー三号だ!」


 バドは、どうだと言わんばかりにこちらを見てくる。確かに、乗り物自体はすごいと思うのだが……一体、誰のネーミングセンスなんだろう。


「えっと……三号って、他にもあるのか?」


 本当に尋ねたかったのはそこではないが、アストルは取り繕うように聞いた。


「いや、こいつだけだ。三号って、なんか言いやすいだろ?」


「そ、そうか……」


 なんとなく、今ので誰が名付けたのか分かった。

 まぁ、名前はいいとして。これが空を飛ぶなんて、本当だろうか?


「入口はここだ。ほら、遠慮しねぇで入りな」


 白いボディの側面がウィィンと音を鳴らして開く。バドはそこから中に入る。アストル、リエルナ、シルゼンもその後に続くが、クローリアは一度立ち止まって振り返った。

 そこには、まだ地面に座り込んでいるニトの姿。クローリアは呆れたようにため息をつく。


「ちょっと、ニト。どうやって、ここまで移動してきたの?」


「……寝ながら」


「え?」


 なかなか乗ってこない2人を見に、バドが顔を出す。


「ニト、お前またやってんのか……。こっちも、あんまりああいうことは気が乗らねぇんだよ」


 バドは、呆れたように頭をかく。


「ああいうこと?」


「ニトのやつ、ここまで来るにもこんなんだったからなぁ……。仕方なく、俺が気絶させて運んだわけよ」


 気絶。そこまでしないと駄目なのかと、クローリアもほとほと呆れてしまった。そういえば、昔からニトには苦手なものが多かったことを思い出す。


「ボス、もう一回お願いします。まだ、その方がいいです……」


 ニトが真っ青な顔で土下座する。あまりの本気さに、クローリアは声も出なかった。

 そんなニトに、バドは喝を入れる。


「馬鹿野郎。だったら、お前はここに残れ。そんなんじゃ、この先お前に王子さんたちを任せるなんてできねぇよ」


「どういうことですか?」


「これから行く和の大陸は、ちょっと荒れてんだ。今は少し落ち着いてるが、またすぐ動き出すだろ。だから、情報が大事になってくるんだ。和の大陸には、すでに仲間が待機してる。誰とは言えねぇが、頼りになるやつだ。そいつとのやりとりを、ニトにやらせようと思ってな。もちろん、お前たちが反対すれば変える」


 そこで、クローリアはふと思いついた。


「アストルが何て言うかは分からないけど、僕は構いません。ただし──ちゃんとこれに乗ってくれたらね」


「うぅ……」


 ニトは恨めしそうにクローリアを睨んだ。





 結局、クローリアとバドが担ぐようにクルッポー三号にニトを乗せた。アストルたちにも、ニト同行の旨を伝える。


「一緒に和の大陸へ?もちろん、俺は歓迎するよ。クローリアの幼なじみだしな」


「ありがとう……王子……うぇ……」


 アストルたちが座る円卓とは離れた隅っこの、なるべく窓から離れた場所に横になりながら、ニトはうんうん唸っている。


「だ、大丈夫か?リエルナとは、えらい差だな……」


 対するリエルナは、窓にずっと張り付いて楽しそうだ。


「本当に飛んでるの!アストル、雲が下にあるの!」


「がっはっは!胆の据わった嬢ちゃんだ。ニトも少しは見習いな!」


「うぇぇ……」


 気持ち悪そうなニトを横目に、バドはクルッポー三号の説明を始める。


「こいつは神石の力で飛んでんだ。動力室がこの真下にある」


 シルゼンは、首を傾げる。


「どうやって操縦しているんだ?見たところ、操縦室はないようだが……」


「そいつは、俺が今もやってるんだぜ?」


「えっ、どうやって?」


 アストルは驚いた声をあげる。その様子に、バドは欠けた歯を見せながら自慢げに言う。


「俺が得意なのは、神石の力をコントロールすること。操縦とか、さっき王子さんの力を調節したみたいにな」


 やはり、そういうことだったのか。しかし、アストルの魔力をコントロールできるのだから、相当なポテンシャルの持ち主だ。


「今、俺以外でこいつを操縦できるのは、和の大陸にいるそいつくらいだな」


「へぇ、すごい人なんだな」


「まぁ、王子さんたちが会えるかは分からねぇが、いいやつだ。だがまぁ、和の大陸まではまだ時間がかかる。お前さん、クローリアとかいったか?」


 バドは、クローリアに向き直った。


「はい、そうですが」


 突然話しかけられ、少し戸惑いながらバドを見る。


「お前さん……王子さんにニトのこと話したか?」


「詳しくは、まだですが……」


「この先、よく分かんねぇやつを連れてくわけにもいかねぇだろ?ちゃんと話してやりな」


 それを聞いて、リエルナは身を固くした。そういえば、リエルナはまだ自分が何者なのか話していない。


「話したくないなら、別にいいぞ?」


 アストルは、特にニトのことを疑ってはいない。リエルナに関しても、疑問はいろいろと残るものの、悪い人間じゃないことは分かるので、別に気にしてはいなかった。


「いや、別に隠すことでもないんだ」


 クローリアは、姿勢を正す。


「初めに言っておくけど、クローリアのせいじゃないんだからね」


 横になっていたニトが、少し身体を起こした。まだ顔は青いものの、顔つきは真剣だ。

 クローリアは、首を横に振る。


「僕のせいだよ。約束、守れなかったんだから……」









──8年前、クローリア10歳


「今日は、今年で10歳になる者たちに、水竜と契約してもらう。シャンレルの民の記念日だ!」


 シャンレルの民は、10歳になるとひとり一頭の水竜と契約する。年に一回、その年で10歳になる子供たちは海岸に集められ、その選定を行うならわしだ。


「クローリア、楽しみだね」


「そうだね、ニト。やっと、水竜に乗れるんだ」


 この年、クローリアとニトもそれに参加していた。水竜隊の隊長が、子供たちが集まったのを確認して、説明を始める。


「よーし、まずは自分で相性のよさそうな水竜を探すんだ。一度や二度だめでもあきらめるな。そういうことは、たくさんあるからな」


 子供たちは、説明が終わると一斉に海に向かって走り出す。


ピィーッ


 隊長が水竜の笛を吹く。すると、海からたくさんの水竜たちが姿を現した。

 その中の一頭が、隊長の前までやってくる。


【今年も、もうそんな時期か】


「ラーム、みんなを集めてくれてありがとう。ついでで悪いが、子供たちの監視を手伝ってくれ」


【言われなくとも、毎年のことだからな。もう慣れたよ。それに、今年はおれも気になっているんだ】


「気になる?何がだ?」


【今年は、次期水竜王になられるアクアレーン様も参加される。誰が王の主になるのかと思ってな】


「なんだ、そっちもなのか。こっちも、アストル王子が10歳になられてな。もうすぐ、いらっしゃるはず……ほらな」

 

 城の方から、護衛と思われる兵士2人と父である国王ルクトスに囲まれるようにして、アストルは海岸へとやってきた。

 アストルの姿に気がつくと、子供たちは一斉に振り返る。


「クローリア、王子だよ!」


「本当だ。王子様も今年で10歳なんだね」





 


「どうだ、ラーム。王子を見た感想は?」


 隊長はどこか誇らしげに尋ねた。しばらく王子を眺めていたラームは、その力を確認し終えたのか、驚きの声を漏らす。


【これはこれは……またすごい力の持ち主だな!】


「やはり、お前にも分かるか。将来が楽しみだな」


 アストルは、ルクトスたちと何か話していたが、やがて話が終わったのか他の子供たちと同じように水竜を探し始める。


「さて、話はこれくらいにして、仕事するか」


 隊長はラームの背に乗ると、子供たちに危険がないように見回りを開始した。プライドは高い水竜だが、凶暴ではないので人間を襲うことはめったにないが、一応監視はしておく。


 ひとり、またひとりと子供たちは自分の水竜を見つけていく。


「やっぱり、次期水竜王様はアストル王子についたか」


【その世話役、ナルクル様もあの少年に決めたようだ。ナルクル様は、あの年になるまで主を決めなかったが、やっといい主が見つかったか】


「今年は、いい子供たちが揃っているな」


 日が暮れかける頃、ほとんどの子供たちが契約を終了した。やっと仕事が終わるかと思った矢先。


──うわぁぁん!ひっく……ひく……


「子供の泣き声?」


 隊長はあたりを見回す。


 いた。岩陰に隠れて、少女が泣いている。そのそばには、心配そうに少女の背中をさする少年の姿があった。少年は、ナルクルの主になった、あの少年だ。

 隊長は、ラームと共に岩陰に近づく。


「どうした?」


「ひっく……あたじっ……うぇ……うわぁぁん!」


 少女は泣きじゃくっていて、何を言っているのか分からない。仕方がないので、少年の方に尋ねる。


「どうして、この子は泣いているんだ?」


「あの、それが……」


 隊長は、耳を疑った。今まで、そんな事例はない。


「なっ、本当に29回チャレンジして……まだ、自分の水竜が見つからないのか!?」


 それがさらに少女をあおってしまったらしく、少女はもっと激しく泣き始めた。隊長は慌てて口をおさえ、少年はなんとか少女をなだめようと必死だ。


 結局、その日は日が暮れてしまい、後日またチャレンジすることになった。


クローリア編です。今まで、どちらかというとシルゼンの方が目立ってた気もするのでようやく…!

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