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アルタジア  作者: 桜花シキ
第4章 要塞グランバレル
31/109

協力者

 クローリアは、まだぽかんと口を開けている。そんなクローリアを困ったような表情で少女は見つめる。


 彼女の名は、ニト=フロウ。リエルナより1つ年上なのだが、年の割にかなり幼く見える。

 このニトという少女は、クローリアにとって決して消えることのない、心の傷になっていた。


──あの時、死んでしまったと思っていたから


「クローリア~?お~い、クローリアだよね?」


 ニトはクローリアの顔の前で、ひらひらと手を振った。それでようやく、クローリアは口を開く。


「う、うん。──ニト、なんだな?」


「そうだよ。クローリアの幼なじみの、ニト=フロウちゃんだよ。へっへ~ん、あたしが大人っぽくなったから見とれてるのか~?」


「いや、それはないんだけど……」


「サラッと否定するなー!」


ニトは、ジタバタと手足を動かし反論する。


(ああ、本当にニトなんだ……)


 その様子を見て、クローリアはだんだんと実感がわいてきた。もう二度と会えないと思っていたのだが、人生は本当に何が起こるか分からない。クローリアは、身体の力が抜けて、へなへなとその場に座り込んだ。


「え、何!?どうしたの?」


 ニトは慌ててクローリアの顔を覗き込む。


「──よかった。生きてて、よかった」


 クローリアは安堵の表情を浮かべた。ニトはそれを聞いて、ふぅ、と息を吐く。


「……心配かけちゃったね。クローリアのことだから、8年間ずっと悩んでたんでしょ?ごめんね」


 ニトは謝った。それに対して、クローリアは首を横に振る。


「ううん、僕が悪いんだ。守るって言ったのに、守れなかったんだから……」


 2人が久しぶりの再会を喜んでいるのもつかの間、サイモア兵たちが再び襲ってくる。


「きたよ!クローリア、立てる?」


 ニトが右手を差し出す。クローリアは少しためらってから、その手を掴んで立ち上がる。


「ニト、この状況──切り抜けられるかな?」


「ふっふっふ……ニトちゃんをなめないことですよ。実は──」


「長いし、回りくどいよニト。さっさと仕事しなよ」


 突如、ニトと同じく白いハトの羽の刺繍が刻まれた戦闘服を着た男性が、こちらに向かってくるサイモア兵たちを爆撃で一掃する。


「なんだよー!あたしの見せ場をとるなー!」


 そんなニトを無視して、男はクローリアに話しかける。


「私たちも協力します。サイモアをここから退けますよ」


「あなたたちは?」


「ご存じないですか?我々は情報屋──通称ハトと呼ばれています」


 男は服の背に刻まれたハトの羽を指す。

 情報屋……噂に聞いたことはある。世界中のあらゆる情報を扱う組織──彼らは相応の金額を払えば、情報の提供や収集、時には戦闘参加もする。情報屋組織は精鋭ぞろいで、強固な軍隊を誇る国であっても一目置く存在らしい。


「情報屋……ニトもそうなの?」


「そうなんだよ」


 ニトは胸を張る。


「下っ端が見栄張らない」


 男はニトを一括する。どうやら、この男はニトの上司のようだ。


「あの……あなたの名前は?」


「私はめったに本名を明かさないようにしていますので。それも情報のひとつになりますから。どうしても知りたければ、支払いの方よろしくお願いします」


 男はそう言うと軍艦めがけて突っ込んでいく。そして、両手に爆弾のような物を持つと、それを放り投げた。


爆撃(ボム)──(フレイム)


 詠唱と共に凄まじい爆音を生じさせながら、火柱があがる。大砲は粉々に砕け散った。


「なんて威力だ……あの爆弾、神石でつくられてるの?」


「うん。先輩の自信作なんだってさ。でもね──」


「ニト、仕事だ。仕込んだ神石、探してくれ」


「またか!そうくると思ったよ!」


「どういうこと?」


「神石使うのはいいんだけど、爆発した後もったいないから神石だけは回収するんだよね。神石ごと爆発した訳じゃないから」


「で、それをニトが回収するわけか」


「そういうこと。人をいいように使うなー!」


 ニトは怒っているようだが、男は動じない。


「ほらほら、早くしないと波にもっていかれるぞ」


「自分で探せ!」


 口ではぶつぶつ言いながらも、しっかり探しには行くようだ。


「まったくもー!どこだ~、ん~……きゃあっ!」


 足を滑らせたのか、バシャっと顔から海に突っ込んだ。


「何やってるんだか……ほら、そこだろ」


「……分かってるなら、自分で拾ってもらいたいんですけど」


 ニトは、びしょ濡れになりながら男を睨む。男はニトと目を合わせないようにそっぽを向いた。

 神石を回収し、ニトが戻ってくる。


「お疲れ様」


「ありがとう。本当に先輩は人使いが荒いんだから……」


「あはは……でも、ニトもドジなのは変わらないんだね」


「ちょっと、クローリア?」


「ご、ごめん……」


 クローリアは慌てて話を変える。


「アストルたちも、大丈夫なのかな?」


「王子のこと?それなら、心配いらないよ。なんたって、ボス直々の出動だからね」






「おうおう、あっちも始まったか。よし、じゃあこっちもやるぞ。王子さん、砲撃の方は俺の仲間たちが何とかしてくれてる。今のうちに、魔法でぱぱーっと軍艦を沖まで押し返しちまいな」


「押し返すって……俺、そういう加減苦手なんだけど……。この間も、ひっくり返して終わっちゃったし……」


 アストルはマクエラでのことを思い出す。


「がっはっは!そりゃあいい。でも、それやっちまったらザイクもキレそうだしな。人の土地で暴れられても困るだろ?ここは、穏便にいこうや」


 そう言って、男はアストルの頭に手をおく。まるで、子供をなだめるように。


「な、何だよ……」


「まぁ、王子さんは加減するだけしてみな。後は俺が調節してやる」


 言われるままに、アストルは詠唱する。


「水流よ、俺に力を……(アクアウェイブ)!」


 海の方で、突然大きな波が起こる。波は軍艦を飲み込み、沖へと引き戻す。しかし、威力が大きく、ひっくり返りそうだ。


「うわ……まずい!」


「落ち着け。王子さんはそのまま保ってな」


 すると、アストルの頭に置かれた手から、何やら温かいものが流れ込んでくる感覚に襲われた。


「なんだ……?」


 アストルは驚いた。力が調節されて、ぐらついていた軍艦がバランスを保ちながら後退していく。






「ザイク様!船が戻されています!」


「あのエンブレムは──情報屋か。面倒な奴らがでてきたな……全艦、退却!」






「ザイクたちが、引きあげていく……」


 戦っていたサイモア兵たちが、急いで軍艦に戻っていく。クローリアとニトも、手を止めた。


「ボスたちが、うまくやったみたいだね」


「クローリア、無事か?」


 シルゼンもそこに合流する。何となく、元気がないような気がした。戦いの疲れなのか、それとも別の何かがあるのか。


「シルゼンこそ、疲れた顔してるよ?」


「……俺は、問題ない。アストルたちに合流しよう」


「おい、そこのデカいの!あたしのこと、無視すんな!」


「……情報屋か」


 シルゼンはエンブレムを見て気がついたようだ。


「僕の、幼なじみなんだ」


「そうか……。別に無視するつもりはなかったのだが……すまなかったな」


 やはり、シルゼンはどこか変だ。気にはなるが、今はアストルたちに合流を急ぐ。


 ひとまず、グランバレルからサイモアの脅威は去った。


 しかし、それはまだ序章に過ぎない。世界を取り巻く運命は、まだ何も語ってはいないのだから……。


覇の大陸編は一応これで収束となります。


次回からは、新しい大陸に入る前に、クローリアとニト、それから大国レティシアに迫る闇──そういったものに触れる章を挟みます。


これからも、冒険におつきあい下さい。

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