助っ人参上!
「ルアン、お前が一緒に帰るなら、今日は引き上げる。くる気がないなら、力ずくになるぞ。──アストル王子も、ここにいるはずだな?」
「知らないな」
ジェイドは言い放つ。
「そうか──では、仕方がない」
ザイクは通信機を手に取った。
「船員、全員戦闘態勢!エネルギーチャージ開始!」
「なっ……グランバレルを吹っ飛ばすつもりですか!?」
ルアンは声を上げる。
「お前が来るなら、やめると言っただろう。気が変わったか?」
「ルアン、行かなくていい。お前の居場所は──ここだ」
「ふ、そうか」
ザイクは笑みをこぼす。ザイクの本当の狙いはルアンではない。ここで、エネルギー弾を発射すれば、アストルは必ず動く。ザイクはそれを狙っていた。
「なら、私たちは高みの見物でもさせてもらうよ。どうやってこれをしのぐおつもりかな?」
そう言い残すと、ザイクとゼロは軍艦へと戻っていく。
「このっ……」
ルアンは急いで追いかけようとするが、完全獣化の影響でうまく身体が動かない。
「無理するな!私がなんとかする」
「なんとかって……いくらジェイド様でも、今からじゃ追いつけませんよ。僕が獣化しないと……」
「お前こそ、無理だろう。どうすればいい……?」
ジェイドは唇を噛んだ。
そうしている間にも、どんどんエネルギーは溜まっていく。
エネルギーチャージ完了、という声が聞こえた。
極限まで溜まった赤い光が、グランバレルめがけて放たれる。
グランバレルなど、あっという間に消し去るであろう砲弾が目前まで迫った時。
「防御壁!」
それを弾くように、グランバレルを光が覆う。
「アストル……」
クローリアは顔を曇らせる。アストルならやるだろうと覚悟はしていたが、これで真っ向からザイクと戦わなくてはならなくなった。
アストルはグランバレルがあの砲弾を受けそうになった時、身体が勝手に動いて防御壁を張ってしまったのだ。
「……仕方ないだろ。それより、俺もいつまでもつか分からない。なんか、前より威力上がってるみたいだ」
「大丈夫」
リエルナがアストルの隣に立つ。
「今度は、私もいるの。アルタジアの加護を……防御壁!」
リエルナの髪飾りが赤く輝き、アストルの張った防御壁に融合するように自分も防御壁を形成した。
「ひとりじゃないの、アストル」
リエルナは微笑む。
「リエルナ……」
「やはり動いたか」
ザイクは笑みを浮かべる。
「発生源は?」
機器類を担当している兵士に訪ねた。
「はい!あの城付近から巨大な神石反応──2つです!」
それを聞いて、ザイクは耳を疑った。
「2つ?確かか?」
「はい、こちらをご覧下さい。」
神石探知機に目をやると、確かに巨大な反応が2つある。
──どうなっている?
ひとつは王子のものだろうが、もうひとつは?
神石の力、未だ謎は尽きないな──
「総攻撃!すべての軍艦に告ぐ!総攻撃!」
ザイクの命令により、10艘ある軍艦のすべてがエネルギーチャージを開始する。
「まずいよ、アストル!総攻撃がくるよ!」
クローリアが叫んだ。
「なんだって!?リエルナ、もちそうか?」
「うーん……分からないの」
それを聞いてシルゼンが動く。
「クローリア、少しでも軍艦についている大砲を破壊するんだ!」
「分かった!」
シルゼンとクローリアは軍艦を目指す。
しかし、2人で10艘もの軍艦を相手になどできるはずがない。そうアストルが思っていた矢先だった。
「がっはっは!だいぶピンチみたいだな、王子さんよ?」
音もなく、左目に眼帯をした筋肉質の大柄な男が隣に立っていた。年は、親父より上に見える。
「うわあっ!?だ、誰だ?」
敵なのか、味方なのか。しかし、危害を加えてくる様子はないようだ。
「詳しいことは後だ。ちょっくら手伝ってやるから、王子さんも働いてくれや」
男はそう言って欠けた前歯を見せながら笑うのだった。
「疾風斬!」
海岸付近ではシルゼンとクローリアが大砲を破壊しようと苦戦していた。それでもシルゼンはなんとか食らいついている。
「あと、どれくらいあるんだ……クローリア、大丈夫か!?」
「なんとか……」
クローリアはそう言っているものの、元々補助系統魔法を得意とするクローリアにとって、相性は最悪の戦いだった。まともに銃弾だけで壊せるはずもない。
「シルゼン、僕のことはいいから……早く残りを!」
「危なくなったら下がれ!」
シルゼンは次に取りかかった。
「ザイク様!グレゴルドです!大砲を破壊しようとしています!」
船員がシルゼンに気がつき、驚いた声をあげる。
「来たか……あいつには話しておくことがある」
シルゼンがザイクの乗っている軍艦の大砲を破壊しようとしたときだった。
「!」
中から、ザイクが現れた。
「久しぶりだな……グレゴルド」
ザイクは見下すようにシルゼンを見る。口調こそ静かだが、怒っている。サイモアを、ザイクを裏切ったことを。
シルゼンは一瞬ひるんだが、すぐに態勢を立て直す。
「何の用だ?」
「何の用だとは、とんだ言いぐさだな。まぁいい。お前に伝えておくことがあってな」
「俺に?」
「お前の弟の件だ。お前がいなくなって、気が狂ってしまったようでね……可哀想に。お前は弟を守るために家族を手に掛けたのではなかったのかな?それなのに、この裏切り……あいつには、もうお前しか支えがなかったというのに」
「シャンレルに連れて行ったのには驚いた。あなたは、あいつをわざと自分の傍においたのだろう?」
「──お前が裏切りそうな気配があったからな。でも、地位はあいつも望んでいただろう?お前がいたからな」
「それは──」
「まぁ、裏切り者はせいぜい罰が下る日を待っているといい。それまで、お前の弟……ドガーは私が責任をもって預からせてもらうよ」
一方、クローリアは大砲以前にサイモア兵たちに囲まれていた。
「連射!」
必死で応戦するも、どんどんわいて出てくる。
「くっ……ザイクのやつ、こんなに兵士を連れてくるなんて……準備がよすぎるよ」
連射が終わり、次の攻撃に入るまでの一瞬を狙って、背後からサイモア兵が攻撃してくる。
「うわ……」
クローリアが目を閉じた、その時だった。
聞き覚えのある声が、クローリアの耳に届く。
「よっ……とととと!ふぃ~、着地せいこーう!」
明らかにバランスを崩しての着地。クローリアの背後を守るように降りたったのは、黒いショートカットで動きやすそうな伸縮性の戦闘服を着た少女だった。戦闘服の背には白いハトの羽をモチーフにした刺繍がしてある。
「助っ人参上!久しぶりだね、クローリア」
クローリアの名を呼ぶ少女は、サイモア兵を銀色の鎖のような武器でなぎはらう。
クローリアは目の前の光景が信じられなかった。だって、あの時守れなかったんだから。でも、本当に──
「ニト──なのか?」
少女は、ニッと笑った。
一応、最後に出てきた女の子もメインキャラクターの予定です。
この少女が何者なのかは、また次回。