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アルタジア  作者: 桜花シキ
第1章 水上都市シャンレル
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侵略

 相変わらず天気は悪いままだったが、国王が無事に帰還したという知らせが届いた。


「アストル王子、ルクトス様が無事に帰還されたとのことです」


 クローリアは、みんなの前ではアストルのことを“王子”と呼ぶ。色々と面倒なことになるからだ。内心納得いかないものの、それが一番いいということはアストルも分かっている。


「ああ、分かった。港まで、迎えにいこう」



 ルクトスは港に停めた船の中から姿を現した。水竜に乗っていければあっという間なのだが、そういった交通手段のように使われることを水竜たちはひどく嫌うので、他国へ行くために海を渡るときはこうして船を使わなくてはならない。

 ルクトスは、アストルの姿を見つけると大きく笑って、右手をヒラヒラと振った。


「おかえり、親父。大丈夫だったか?」


「おう、ただいま。俺は、ピンピンしてるぜ。……そっちは、何もなかったか?力を使うようなこと、してねぇよな?」


「何だよ、急に……。大丈夫、してないって」


 いつも真面目な話などしない父がそんなことを言うので、アストルは少し戸惑った。


「そうか……なら、いいんだが。いいか、しばらくは力を使うのは禁止だ。分かったな?」


 アストルは目を丸くした。


「はぁ!?何でそうなるんだよ!」


 思わず声を荒げた。しかし、父は表情を崩さずにじっとアストルを見ている。


「いいから……頼む」


 今日の父は、かなり変だ。レティシアで一体何があったのだろう?

 なんとなく、自分が心配されているのは分かる。

 しかし、なぜ?

──アストルは答えなかった。


「ルクトス様、今回の会談のご報告を。早くしないと、ルクトス様は忘れてしまいますからなぁ……」


 ルクトスの帰りを待っていた、物腰の穏やかそうな老人──ルクトスが幼いころから仕えている、いわばアストルとクローリアのような関係──がニコニコしながらやってきた。これはチャンスと、アストルは合の手を入れる。


「ほら、ジギルさんが呼んでるじゃないか。親父は忘れっぽいんだから、早く行ってこいよ!」


 ルクトスは眉間にしわを寄せたまま、もう一度念を押して城へと向かった。

 その道中、アランの忠告がずっと頭を離れなかった。


(俺は、アストルまで失うわけにはいかねぇんだ。なぁ、ユナ……)



「何なんだよ……」


 父の姿が見えなくなってから、アストルは呟いた。

 帰ってきたと思ったら、いきなり力を使うなだって?意味が分からない。

 異変を感じたのか、クローリアが隣にやってきて小声で尋ねてきた。


「アストル、ルクトス様どうしたの?いつもと様子が違っていたみたいだけど……」


「俺にも、よく分からない。急に、俺に“力を使うな”とかいってきてさ。訳わかんねぇ……どうしたんだよ、親父」


「アストルの力は強力だけど、その分消耗も激しいからかな?何にせよ、君のことを心配して言って下さってるんだろうけど。僕も、その方がいいと思うよ」


「あーあー、分かってるよ。そもそも、最近は力なんて使ってないし……心配いらない話だったな」


 アストルはため息をひとつつくと、荒れる海に目をやった。

 水竜たちも海底に身を潜めているのか、姿を現さない。


 嵐が、やってくる気配がした。




──ルクトス帰還から1週間後、ようやく海も静けさを取り戻し始めた時だった。

 城にこもりっぱなしだったアストルは、ようやく外出できるようになったとあって上機嫌だった。いつものように、クローリアを連れて町を巡回して廻る。そして、やはり海岸へと足を運ぶのだった。


ピィーッ


 2人は、水竜の笛を吹いた。

 すると、海底から勢いよく2頭の竜が姿を現す。大きな波を2人は被った。


「久しぶりだな、レーン。元気だったか?」


【うん!しばらく遊べなかったから、今日はいっぱい遊んでね】


 身体は10mはあろうかという巨体なのに、子供じみた話し方をするこの水竜こそ、次期海王となるアクアレーンだ。子供じみているとはいえ、100歳は超えているのだから驚きである。


【アクアレーン、お前は次期海王となるのだぞ?それ相応の振る舞いをしてもらわねば……】


【分かってるよー。ねぇ、アストル何して遊ぶ?】


【まったく……これを現・海王ザナルカス様がご覧になったら、さぞお怒りになられるだろうな……】


「君も大変だね、ナルクル」


 クローリアの水竜ナルクルは、1000歳にもなる竜だ。アクアレーンと比べると、とても貫禄がある。

 物知りで、アストルやクローリアもよくアルタジアの歴史について聞かされたものだった。

 アストルとアクアレーンが海で遊んでいる姿を横目に、ナルクルはクローリアに話し出した。


【クローリア、近頃海がおかしい……こういう時はきまって良くないことが起きるのだ。注意を怠るな。あやつでは、危険に気づかない可能性が高いでな。おぬしが目を光らせておくのだぞ】


 ナルクルは無邪気に笑うアストルに目をやった。


「そうだね、異変は感じているよ。ただの思い過ごしなら、いいんだけどね……」


【そうだな……む?】


 突然、ナルクルが水平線を睨み始めた。


「どうしたの、ナルクル?」


【何か来る……。クローリア、目のいいおぬしになら見えるかもしれぬ。わしの背に乗れ】


 言われるままにクローリアはナルクルの背に乗り、ナルクルが示す方向へ目をやった。

 1,2,3…黒い影がいくつもこちらへやってくるのが見える。

 よく目を凝らす。




 軍艦だ!




「あれは……軍艦だ!」


 ぴたりと、遊んでいたアストルとアクアレーンの動きが止まった。


「軍艦……だって?」


 外部から今までそんなものがやってきたことはなかった。それだけに、緊急事態であることは明らかだ。


「すごい勢いでこっちに向かってる!」


「急いでみんなに知らせよう!それから……俺は中央広場に行って、この国全体に防御壁を張る」


 クローリアはアストルを制した。


「アストル!ルクトス様から、力を使うのは禁止だと言われたんだろ?それに、そんなことしたら君が死んでしまうかもしれない」


「この程度、問題ない。クローリア、国のみんなを守るのが最優先だ。な?」


 アストルはクローリアの制止も聞かず、風のように走って行ってしまった。

 クローリアは追いかけようか迷ったが、自分が言っても聞かないだろうことは分かっている。

 クローリアはルクトスに伝えた方がいいと思い直し、城に戻るその途中、人々に避難を促した。

 周りを海で囲まれたシャンレルは時間が命取りになる。早く国外に避難させないと、完全に包囲されてからでは逃げられない。



──城にいたルクトスも、外が騒がしいことに気が付いた。

 窓の外を見ると、人々が水竜に乗って次々と国外へ出ていく。国を守る兵士たちは、国民の避難を手伝いながら戦闘態勢に入っていた。


バン!


 玉座の間の扉が勢いよく開き、クローリアが転がり込むようにして入ってきた。

 そこに、アストルの姿はない。

 ルクトスは青くなった。


「あいつ、まさか……」


「はい、申し訳ありません……。中央広場です、急いで向かってください!!僕じゃ、アストルを止められない……」


「分かった。お前は、狙撃隊の指揮をとれ。あいつは…俺がなんとかする」



──中央広場は逃げ惑う人々で溢れかえっていた。10歳に満たないため自分の水竜がいない子供たちの避難に時間がかかっているらしい。

 時間を、稼がなくてはならない。

 アストルは片膝をついて身体を安定させると、意識を集中した。


「できるだけ強力なやつを…防御壁バリアウォール!」


 アストルから光の筋が四方八方に飛んでいく。その光はドーム状に国全体を包んでいった。


「おお、王子のお力じゃ!今のうちに早く避難せい!」


 国民はアストルの名を口にしながら、避難を続ける。

 ルクトスも、その光を見た。

 同時に、大きな絶望がルクトスを襲う。


「やっちまった……しかも、これだけ目立っちまったら隠しようもねぇ。絶対、気づかれた」




──シャンレルに迫る何艘もの軍艦からも、その光は見ることができた。


「ザイク司令官、あの光から……莫大な神石反応です!」


 サイモアが独自に開発した、神石探知機がけたたましい音を鳴らしている。


「発生源は?」


「国の中心部からだと思われます!」


「了解だ。ゼロ、ドガー、お前たちも準備しておけ。あれほどの力を隠し持っていたとはな、ルクトス。その力、何としてでも手に入れる」


 ザイクは笑みを浮かべた。


 時間は、刻一刻と迫っている……


ようやく、サイモアが攻めてきました。


アストルの活躍はここからが本番なので、

気合いを入れて書いていきたいと思います。

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