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アルタジア  作者: 桜花シキ
第4章 要塞グランバレル
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衝突

 ルアンの意識の奥深く。


(ジェイド──の声?)


 ルアンは暗闇から顔を上げる。はるか上の方にかすかな光が見えた。


(……随分、深いところまで入ってたんだな。グランバレルに初めて来たときと同じだ)


 あの時は、力が暴走していて自分ではブレーキが効かない状態だった。

 グランバレルの人たちを傷つけたい訳じゃない──

 それなのに、身体がいうことをきかなくて……。


 こうして、今みたいに意識の奥底に沈んでいたんだ。自力で上に上がることができなくて、もがいてもがいて──それでもどうしようもなくて、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになって──泣いていたんだっけ。



──その時も、ジェイドの声がした。


 その声に引っ張られるようにして、僕は光の方へ進むことができたんだ。


 だけど──


(ジェイド……今回はだめだよ。僕は、もう光へは戻らないから)


「ジェイ……ド……ザマ、ドイテ……グダ……ザ……イ」


 ルアンは、薄れた意識の中で、声を絞り出した。


「ルアン、話はシルゼンから聞いたよ」


 ジェイドはゼロと刃を交えながら言った。さすがは力を誇る国の王、ゼロとも互角にやり合っている。


「ドイテ……クダサ……イ」


「なぁ、ルアン。私がこの国の王になった話、まだしてなかったよな?」


 ジェイドはゼロを後ろに後退させる。


「──アンヴァートに、父を殺されたんだ」


 ジェイドは思いも寄らぬことを口にした。


 いつの間にやら、ザイクが近くまで歩いてきていた。ゼロは、ザイクを守るようにその前に立つ。


「本人は隠しているつもりだがな……」


 深い意識の底で、ルアンはジェイドの声を聞いた。


(アンヴァートが…ジェイドの父親を?だったら、どうしてジェイドはあいつと結婚なんか…)


「あいつに雇われた暗殺者が、父の食べ物に毒を盛ったんだ。暗殺者の方は捕らえたが…証拠隠滅のためか、死んでしまった。だが、私は必死で探して、ついに黒幕がアンヴァートだと突き止めたんだ」


「父上亡き後、グランバレルの友好国は態度を変えた」


 ザイクはジェイドにそう言った。ジェイドは頷く。


「ああ、私は認めてもらえなかった。あくまでも協力していたのは、父に対してだけ。女に国をまとめられるのかと、散々言われたさ。偏見だよ」


「そしてこの財政難……その弱みにつけ込んで、アンヴァート殿はあなたに結婚を申し込んだ。あなたへの執着は本物ですよ」


「たとえ仇だと分かっても、国のことを考えれば騒げない……アンヴァートの策にはまったのさ」


 だが、とジェイドは続ける。


「そうやってしばらく時間をおいたことで、考えたことがある。あいつのことは、いまでも許せないさ。だが、殺してしまえばそれまで。私は、あいつがちゃんと謝って、罪を償ってほしいと思っている。たとえ、どれだけ待ってもな」


「綺麗事ですね。言って分かる人間なんて、ほとんどいない」


 ザイクははっきり言った。


「ザイク……お前たちのやり方は、自分の意に従わない者たちを斬り捨てることだ」


 ジェイドは、ルアンに向き直る。


「ルアン、お前はここでこいつを殺していいのか?それで、本当に気は晴れるのか?」


(それは──)


『ルアン、父さんたちは戦わないんじゃない。戦い方が違うだけだ。血を流すことだけが戦いじゃない。その戦い方が一番楽だろうから、お前も流されるかもしれない…でも、父さんたちは難しい道を選んだ。それは──』


(──本人に、過ちを気づかせること)


 そうだった。


 父さんたちの本当の思いは、サイモアに復讐することじゃない。ザイクの偏った考え方を変えること。大事なこと、忘れていた。


 ルアンは立ち上がり、光を見上げる。


(ああ、なんだ……思ったより近かったじゃないか)


 暗闇に沈んでいた意識が、白い光に包まれた。


「綺麗事で、何が変わる?」


「たとえ綺麗事でも──」



「──やらなきゃ、絶対変わらない!」


 ジェイドが言いかけた言葉を、ルアンは続けた。


 父さんたちの戦いは、まだ終わっていない。


 だって、まだ僕は戦えるんだから──


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