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アルタジア  作者: 桜花シキ
第4章 要塞グランバレル
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復讐

──間違いない。これは、あいつの気配だ。


 ルアンは薄れる意識の中で思った。

 完全獣化の状態では、パワーが桁外れに上がる。しかし、自我が保てなくなってしまうという欠点があった。


 初めてグランバレルに来た時、あの時も完全獣化の状態だった。あの時は、実験されたばかりで力が暴走したために起こったのだが、今回は違う。


──あいつだけは、許さない。


(ルアン、父さんたちは王家が正しいとも新しい国が正しいとも思わない。──だから、従うことはしない。ごめんな、ルアン……)


「父さんたちが謝ることないよ…。僕だって戦いたくはないんだ。でも──」


 ルアンは足を止めなかった。


 どうしても、あいつだけは倒さなくては。

 父さんたちの思い──知っているのは、もう僕だけだから。


 ルアンは雄叫びをあげた。それと同時に、ルアンの意識は暗闇の奥底へ沈んでいく。


(さよなら……ジェイド)






「アストル!急いでここから離れろ!」


 いきなりジェイドが部屋にはいってきて、そう言った。


「ジェイド、どうしたんだ?その慌てよう……」


「ルアンが……もうじきここから出られなくなると。あいつは、なぜかひとりで飛び出していってしまった。何かと戦うつもりだ。私はルアンを追いかける。お前たちは、早く行け!」


 それを聞いて、シルゼンは気がついた。


「──ザイクだ」


「シルゼン、どういうこと!?」


 クローリアがその名を聞いて飛び上がる。


「ルアン殿に俺が呼び出された時、話を聞いたんだ。──ルアン殿も、俺と同じサイモアの貴族。ルアニスク=ロンディル……それが、彼の本当の名前だ。この状況で隠すこともない」


「ルアンが……でも、それでどうしてザイクが?」


 アストルは腑に落ちなかった。ルアンにザイクと戦う理由があるのだろうか?


「ロンディル家はグレゴルド家と違って、革命のとき最後まで司令官に従わなかったらしい。ジェイド殿はご存知だろうが、彼の獣化の力……あれはサイモアの実験によるものだ。彼以外、その実験体にされた家族や友は亡くなったらしい」


 それを聞いて、ジェイドは脱力する。


「なぜ、私には話してくれなかったんだ……」


「ルアン殿は、その話が広まってこの国に危険が及ぶのを恐れたのだろう」


「それで、ひとりで?そんなの……」


 アストルは無茶だと思った。そんなアストルに、ジェイドは言う。


「……ルアンは、死を覚悟している。私は、ルアンを止めに行いかなくては。ルアンは、戦うことを望んでいない……あいつはそういうやつなんだ。あいつの過去を消せる訳じゃない。だが、私はあいつに帰ってきてほしいんだ」


 ジェイドは右手で剣を握りしめた。


「その話だと、ザイクが近くにいる可能性が高いってことだよね」


「このままだと、見つかっちゃうの」


 逃げ場はもうないかもしれない。せっかくジェイドやルアンが教えてくれたが、逃げるという選択はもうできないだろう。ザイクはそんなに甘い人間じゃない。


「……どうせ見つかるなら、ルアンを止める手伝いをしないか?」


 アストルは突如として提案した。


「アストル!?自分から出ていく気?確かに、このままいても見つかるとは思うけど……」


「だろ?特にいい作戦もなさそうだし。なぁ、シルゼン?」


「今回ばかりは、時間がない。……すまないな」


「──というわけだ。ま、捕まるって決まったわけじゃないし。もしかしたら、ここで倒せるかもしれないしな」


「あまりあの人を甘く見ないことだ。特に──あの人の側近には注意しておけ」


 シルゼンは真剣に言った。

 シルゼンも十分強いのに、それでもこれだけ警戒するって……どんな人なんだろうか。アストルは少しだけ怖くなった。








「おや、そちらからわざわざ出向いてくれるとはな。元気だったかな?」


 ザイクを乗せた軍艦は、アストルたちが水竜に乗ってやってきたのと同じ場所に停まった。ザイクが船から降りてみると、そこには鋭くこちらを睨むルアンの姿があった。


──殺気


 さすがはラディンバル、凄まじい殺気だ。ザイクも少しは恐怖というものを味わった。

 しかし、それをかき消すほど、自分の実験が成功したことに対する喜びの方が勝っている。


「ダ……マレ!」


 完全獣化状態のルアンは、勢いよくザイクめがけて突進した。

 しかし、ザイクは動じない。


 すぐに、黒い影がザイクの前に立つ。


「──ザイク様、大丈夫ですか?」


 ゼロは相変わらず少しも表情を変えずに、短剣一本でルアンの攻撃を防いだ。


「ああ、問題ない。ゼロ、私もこいつ一匹から自分の身を守るくらいはできる。お前は、私を気にせずこいつの確保に専念しろ」


「分かりました」


 ゼロはルアンに向き直ると、スッと姿を消した。


「!?」


 ルアンが動揺した瞬間、ゼロはすでにルアンの背後にまわっていた。


ドッ!


 鈍い音がしたかと思うと、ルアンは抵抗するすべなく倒れる。

 あまりに一瞬の出来事だった。

 ゼロという男、まだその実力は未知数だ。


「さすが、手際がいい。そいつは、船に乗せてサイモアに連れ帰る」


──ピクッ


 ゼロは何かを感じ取り、とっさに後ろに下がる。

 間一髪、ゼロはルアンの爪の一撃をかわす。気絶させたはずのルアンは、まだ立ち上がる。


「まだ動けますか。完全に気絶させたと思ったのですが……」


「ラディンバルが相手ではな。ゼロ、神石も使って構わない。最悪、生きてさえいれば、どんな状態でもいい」


「分かりました」


 ゼロは、上着の胸ポケットから神石のペンダントを取り出し、首にさげた。


強化(フォース)


 神石の赤い光がゼロを包む。


加速(アクセル)


 続いて唱えると、ルアンめがけて体当たりした。ルアンは遠くの岩場まで吹っ飛ばされる。

 ラディンバルに完全獣化したルアンを、ゼロは軽々と吹っ飛ばした。強化状態のゼロには、いくらラディンバルといえど手が出ない。


接近(ステップ)……加速(アクセル)


 ゼロは一気にたたみかける。

 ルアンがそれに気がついた時には、ゼロはすでに目前に迫っていた。


「大人しくして下さい」


 短剣が振り下ろされる──



キィン!


 金属がぶつかる音がした。


「何の用です?」


 ゼロは、ルアンを庇うように立つ人間を見た。

 その人間はゼロの攻撃を剣で防ぎながら、顔を上げる。


「──こいつは私の国の者だ。連れて帰る」


 それは、ジェイドだった。


「こいつの帰る場所は、あなたの元ではありません。こいつは、ザイク様の所有物です」


「ルアンは、物じゃない。お前たちに大事な国民を渡せないな」


 ジェイドはゼロの攻撃を弾き返し、剣のきっさきを向けた。


ザイクとの衝突は避けられない…!


果たしてアストルたちはこの危機を逃れることができるのか?

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