入国審査
2対2で戦うことは決まったが、さて誰を選ぼうかと顔を見合わせる。
リエルナは防御や回復が専門だから、外した方がいいだろう。となると、アストル、クローリア、シルゼンの3人から選ばなくてはならないが、シルゼンはほぼ確定と思われた。実力から言っても、彼を外す理由が見つからない。
そうすると、必然的にアストルかクローリアかという2択になる。力を全開で使えないアストルが戦うか、それとも無難にクローリアが戦うか。
「お前たち2人がいけ」
シルゼンが唐突に言った。
シルゼンの指す2人──それは、アストルとクローリアだった。
「シルゼンは戦わないのか?」
「あの門番は、相当息があっているように見える。連携ならば、お前たちの方がとれているだろう?」
「でも、僕は……」
「こちらはこの2人でいく」
シルゼンはアストルとクローリアを前に押して、リエルナと共に後方へ下がった。リエルナはシルゼンに尋ねる。
「シルゼン、クローリアのこと心配なの?」
「別に……そういうわけではない。ただ、あいつは自分がアストルにとって必要な存在なのか疑問を抱いているように見えてな。そんなことは、言わずとも知れているというのに……」
「それで、これなの?シルゼン、分かりにくいけど、優しいの」
「だから、別にそういうわけではない」
シルゼンとリエルナは2人に目をやった。アストルの方はやる気満々といった様子だが、クローリアはまだためらっている。
(確かに、僕はアストルのことを守りたい。でも、それだけの力が今の僕にあるだろうか?……僕は、昔と何も変わっていない。──あいつを守れなかったあの時と、何も……)
「クローリア」
アストルに声をかけられて、クローリアは我に返った。
「どうした、やっぱりお前も寝不足なんじゃないか?暗ーい顔して……具合悪いのか?無理すんなよ」
「僕のことは、心配しなくても大丈夫だよ」
「友達の心配はするだろ。それとも……お前、まだ俺の従者のつもりなのか?」
アストルはため息をついた。
「お前、真面目すぎなんだよ。どうせ、俺のこと守れるか──とか、そういうこと考えてるんだろ?俺、馬鹿だけどお前のことは分かってるつもりだぜ?シルゼンと自分を比べてるみたいだけど、お前はお前。俺の友達だよ。それは変わらないだろ?あんま、深く考えるなって!」
アストルはいつでも、優しい。それがアストルのいいところだが、クローリアは何かがチクリと痛んだ。
「……アストル、本当に君は優しいよ」
クローリアは銃を構えた。
「アストル、君に何か指示しても守れないと思うから、危なくなったら僕が援護する。好きに暴れていいよ」
「さすが。やっぱり、お前が一番俺のこと分かってるよ」
「でも、注意はしておいて。今の僕に、君を守りきれる力があるかは分からない。──友達として、君には無事でいてほしいから」
──君が無事なら、僕はそれで……もう、あいつの時のように失わずに済むなら。
「準備はよいな?先に言っておくが、我らはもう何年も共に鍛錬し、国の門番を任されて以来、負けたことがない。覚悟してかかられよ!」
「それは俺たちも同じだよ。いくぞ、クローリア!」
アストルは勢いよく飛び出した。
──僕はアストルを失わずに済むと思う?ねぇ、ニト……
「空破撃!」
アストルは右の門番に向かって、上空から攻撃を仕掛けた。しかし、それは軽くかわされてしまう。
「遅い!そのような攻撃で我々は倒せんぞ」
(くっ……力の制御でスピードが下がったか)
全開で戦えば、サイモアに居所を突き止められてしまうかもしれない。しかし、このまま戦って勝てるだろうか?
そんなことを考えている間に、左の門番がアストルの着地の瞬間を狙って剣を振り下ろす。
「時止の弾丸!」
クローリアの撃ちだす弾丸は、その剣を持つ腕に命中した。それと同時に、一瞬剣を振り下ろす男の腕が止まる。その隙に、アストルは門番を蹴り飛ばした。門番は吹っ飛ばされ、地面にたたき落ちる。
「気を取られたな?我らの攻撃は2人でひとつ。食らうがいい!」
安堵したのもつかの間。
もう一人の門番が、アストルに振り向く暇を与えずに第二の攻撃を仕掛けた。
「うわっ、間に合わな──」
アストルは目を閉じた。
「あれ、斬られてない……?」
「アストル、最後!吹っ飛ばして!」
クローリアが叫ぶ。言われるままに、アストルは回し蹴りを繰り出した。その蹴りは、アストルに剣を向けていた門番に見事に当たり、はじめに吹っ飛ばした門番のところまで飛んだ。
「……クローリア、どうなってるんだ?」
「僕の銃は2丁。最初の一発目の後、時間差で二発目も撃っておいたんだ。ちゃんと当たってくれてよかったよ。それより、アストルも体術だけで十分戦えるじゃない。少し安心したよ」
「クローリア……やっぱり、すごいなお前」
「すごくなんてないよ。今回はたまたま運が良かっただけ。……あの時は、守れなかったんだから」
「クローリア?」
「何でもない。これで、王様には会わせてもらえるのかな?」
倒れていた2人の門番は、唸りながら起きあがった。
「まさか、我々が倒されるとは……お主らの連携もなかなかのものと見た」
「ぬぅ……悔しいが我らの負けだ。王との面会を許そう。しばし、ここで待たれよ」
2人は門の方へ歩いていくと、鍵を差し込み押し始めた。すると、巨大な門が大きく口を開く。
「さぁ、入るがよい。王の元へ案内しよう」
扉の向こうは、想像していたより普通の国だった。城下町には、買い物をする親子や座って茶をすすっている老人の姿などがあちこちで見受けられる。攻撃的な国だと聞いていたが、これを見る限りそうは思えない。もっと、この門番のように鎧兜に身を包んだ猛者たちが溢れかえっているのだと思っていたのだが……。
「もっと荒れているとでも思ったか?」
門番のひとりが、見透かしたように言った。
「いや、そんな……」
「いや、いいのだ。この国にも、戦いを好まぬ者は大勢いる。我々が戦うのも、この者たちを守るため。強き者に従うという掟は、無理に戦って血を流さぬようにという王の気持ちだ」
「この国の王は、戦いを望んでいないということか?」
「左様。されど、我々とてこの国を簡単に渡すわけにはいかぬ。我々門番が負けた時には王の元へと連れていき、場合によっては王自ら戦うと……王は強い」
「大丈夫、俺たちは話しに来ただけだから。この国の王様か……どんな人なんだろうな?」
「どうした、ルアン?」
王の間で2人の人間が話していた。王と思われる人物に、傍にいた青年が答える。
「誰か、来たようです」
「この国に客人か。まさか……あいつではないよな?来るなんて話は聞いてないぞ」
王は顔をしかめた。それに対して、ルアンと呼ばれた青年は首を横に振る。
「違うようです。先ほどまで、門の前で戦っている音がしていましたが、今は止んでいます。誰かは分かりませんが、危害を加えてくる様子はありません」
ルアンは先ほどの様子を音で聞いていたという。王は安堵の表情を浮かべると、来るであろう客人の到着を待った。
「さて、何の用かな?あいつでないなら、別に誰でもいいさ」
それから少しして、王の間の扉が叩かれた。
「ジェイド様に面会を求める者を連れて参りました!」
中から、入れという声がして扉が開く。
アストルたちは、グランバレルの王の姿を見た。
ついに王との謁見…果たしてどんな人物なのか…?