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アルタジア  作者: 桜花シキ
第3章 古代文明マクエラ
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別れと旅立ち

 ヴァグラは右手を空に掲げた。その掌には、赤い魔導印が刻まれている。


「これは、潜入中に手に入れた戦利品でしてねぇ。いやぁ、非常に便利なものですよ」


 掲げた掌に、バチバチと雷が集まり始めた。


(イン)に呼応し貫く雷撃をアドサンダーボルト


 詠唱と同時に、アストルに向かって鋭い雷撃が走る。


防御壁(バリアウォール)!」


 アストルは素早く防御壁を作り、攻撃を防いだ。


「防ぎますか。ですが、油断は禁物ですよ」


「!」


 いつの間にやら、ヴァグラがアストルの背後にまわっている。前方からの攻撃に気を取られて、後ろの守りは弱い。


連射(マシンガン)!」


 かけ声とともに、赤い弾丸が走った。


「クローリア!」


「アストル、集中して!」


 クローリアの弾丸を避けながら、ヴァグラは後ろに下がる。


「いい援護ですねぇ」


 ヴァグラはニヤリと笑った。


暗闇の弾丸(ブラインショット)!」


 クローリアは続けて弾丸を撃ち出す。神石が赤く輝いたかと思うと、撃ち出された弾丸はヴァグラの前で爆発し、あたりを黒い煙で包んだ。


「煙幕ですか、考えますねぇ。ですが、意味はありませんよ」


 ヴァグラはあっさりと黒い煙を爪で切り裂き、クローリアに襲いかかる。


「甘いですよ、これで終わりです!」


 ヴァグラの言葉に、クローリアは笑みを浮かべた。


「甘いのはどっちかな?油断は禁物、なんだよね?」


「!?」


 ヴァグラがそれに気がついたときには、もう遅かった。ヴァグラの頭上からアストルが迫る。


「これで終わりだ……空波撃(くうはげき)!」


 アストルの右手の拳があたりの空気を切り裂き、ヴァグラを地面に叩き込んだ。







「なぜ……なぜなのです、シルゼン隊長。あなたは強い……サイモアの理想のために戦っていたのではないのですか!?」


 次々と襲いかかるサイモア兵たちを、シルゼンはひとりで相手にした。シルゼンがいなくなった後、第三隊は第四隊に吸収されていたらしい。

 倒されたイニスは、シルゼンを見上げる。


「イニス、お前は俺がどうして司令官の下で働いていたのか知らないだろう。あの人の理想……争いのない世界……それ自体はすばらしい考えだと思う。しかし、あの人はそのためなら手段を選ばない。自らに従うものには優しいが、従わない者には相応の罰を……。本当に世界から争いをなくすためなのか……そのためなら何を犠牲にしてもいいのか……今まであの人に従っていた俺が言うのもどうかとは思うが、疑問に思った」


「シルゼン隊長、一体何があったのですか?」


 シルゼンは背を向けた。


「俺はもう隊長じゃない。……イニス、お前たちはさっさとここからサイモアへ立ち去れ。軍艦はまだ動くだろう。その怪我では、もう俺とは戦えまい。それでもここに残るというのなら、俺はお前たちにとどめをさす──行け!」


「隊長!」


 シルゼンはアストルがさっき倒した2艘の軍艦に近づく。


疾風斬しっぷうざん


 残りの大砲を壊すと、シルゼンは離れていった。姿は見えないが、どこかで見張っているのだろう。


「……全員、退却だ!!」


「いいのか、イニス!?ヴァグラ隊長がまだ……」


 第四隊の隊員の男が言った。


「今の私たちの誰にも、シルゼン隊長は倒せない……たとえヴァグラ殿であってもだ。シルゼン隊長の気が変わらないうちに、私たちだけでも生き延びる」


「イニス、お前……グレゴルドはもう……」


「このまま残って勝算はあるのか?」


「それは……」


「異論はないな?動ける者は重傷者に手を貸して、船に乗せるんだ」


 イニスたちは軍艦を起こすと、怪我人を乗せて古の大陸から去っていった。離れた岩場から覗いていたシルゼンもそれを見届けるとマクエラへ戻る。


(先ほど森の方で大きな衝撃があった……あちらも終わったようだな)






 その頃、マクエラではサイモア兵たちをひと通り片付けたところだった。


「……ルル、どうなったルルか?」


 眠っていたルルが、目を覚ました。


「教授!みなさん、教授が目を覚ましました!」


 ルルの弟子がぱたぱたと走っていく。


「せっかちルルね……どうなったルル?」


「サーネル教授……あらかた片付いたところだ。もう安心していいだろう。軍艦の攻撃も、もうない。あなたの怪我は、あの人間の少女が治した」


 ルルがかばった男は言った。

 男はルルに近づくと、頭を深々と下げた。


「すまなかった」


「ど、どうしたルル!?」


「俺の不注意で、マクエラはこうなった……。サーネル教授、あなたにも迷惑を……」


「そのことルルか……君を助けたいと思ったのはルルの勝手ルルよ。それに、マクエラがこうなったのは、君だけのせいじゃないルル」


「しかし……」


「もちろん、君も不注意だったルルよ。でも、長い間、マクウェルたちのわだかまりを放っておいたのも悪かったルル。今回は、みんなに原因があるルル。みんなで背負うべきことルルよ」


 そうこう話しているうちに、弟子たちや他のマクウェルたちもルルの元へやってきた。


「教授、よかったです……心配しておりました」


 弟子のひとりが言った。


「心配かけたルルね。リエルナさんも、ありがとうルル」


 後ろの方に立っていたリエルナは、こくんと頷いた。


「ルルのことルルが……リベランティス様やグレイ、カルラ……このことを知らない人たちには黙っていてほしいルル」


「サーネル教授!?」


 男は驚きを隠せない。弟子たちも初めは驚いていたが、すぐにルルの意図を察した。


「教授、これ以上わだかまりを大きくしたくはないのですね。今回のことは、みんなの責任……私たちも分かっております。教授がそれでいいとおっしゃるのなら、何も言いません。」


「しかし、俺は……」


「誰もあなたのことを責める気はありません。しかし、あなたが悪いと思っているのなら、サーネル教授の件は一生黙っておくこと。……それが、あなたにとって一番の罰でしょう」


 弟子のひとりがきっぱりと言った。

 男は悩んでいたが、黙って頷いた。



「おーい、みんな無事か!?」


 森の方からアストルとクローリアが帰ってきた。海岸の方からはシルゼンとリベランティスたちが姿を現す。


「帰る途中、リベランティス殿たちに会ってな」


「シルゼンは軍艦を追っ払ってくれたんだよな~。……ルル、どうした?」


 ルルの様子に気づいたリベランティスが怪訝そうな顔をする。


「リベランティス様、ちょっと力を使いすぎたみたいルル。でも、もう大丈夫ルルよ」


 ルルは笑った。

 そのそばで、ひとりの男が暗い顔をしている。リベランティスは、その男に問いかけた。


「そうなのか?」


 男はためらいながらも頷いた。


「まったく、教授は無理なさるんですから!」


 弟子が調子を合わせる。


「……そうかい。ま、無事でなによりか~」


「サーネル教授、本当平気か!?」


「カルラ、少し静かにね」


 何か感づいたグレイはさりげなくカルラをとめた。


「まぁ、兄貴たちの方も片付いたみたいだな。アストルたちにも、手間かけたな」


 ロロが振り返ってアストルとクローリアを見た。2人は、何かを引きずっている。


「おまえ……」


 カルラが睨む先には、気絶したヴァグラの姿があった。


「いや……どうしようかと思ったんだけど、こいつはマクウェルのみんなに任せた方がいいかなって」


 アストルは少し迷ったように言った。それに対して、ルルは首を縦に振る。


「ありがとうルル。彼をどうするかは、マクウェルみんなで決めるルルよ」


 マクウェルたちはルルの言葉に同意した。カルラも頷く。


「さて……と、とりあえずサイモアはここからいなくなったわけだ。けど、オレたちにはまだ色々問題が残ってる」


 リベランティスはみんなを見た。


「けど……みんなで何とかする、だよな?」


 リベランティスは、初めて会った時よりいい顔をしている気がする。少しだけ、グレイたちも嬉しそうだ。みんなで、か。


「アストル王子たちには、本当にお世話になったルル」


「いや、俺のせいで騒ぎが大きくなったかもしれないし……ごめん」


「そんなことないルルよ。何かお礼がしたいルルが……」


「それなんですが……アストルの居場所がばれてしまった以上、すぐに出発しないといけないんです」


 クローリアが言った。


「そうなんだ。だから、もう行かないと。やることも残ってるから」


「ルル~、急ルルね。だったら、次にきたときにはアルタジアの残した遺跡や研究をじっくり説明させてほしいルルよ」


「気をつけろ、兄貴は研究のこととなると熱くなりすぎるからな」


 アストルは、初めてルルに会ったときの事を思い出した。


「はは……楽しみにしてる」




ピィーッ




 アストルとクローリアは水竜の笛を吹いた。アストルたちは水竜の背に乗り、新たな大陸を目指す。



「……行ってしまったルルね」


「オレたちにも、やることがあるだろ。あいつらが戻ってくるまでに、片付けようぜ」


 アストルたちを乗せた水竜の姿が遠ざかる。

 間もなく、夜の闇があたりを包み始めた。


古の大陸編、終了しました。

また、戻ってくるかもしれませんが、いったんルルたちとはお別れです。


アストルたちは新たな大陸へ──

今度は何が待ち受けているのか…これからも、アストルたちの冒険にお付き合い下さい。

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