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アルタジア  作者: 桜花シキ
第3章 古代文明マクエラ
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取り戻すために

 騒ぎを聞きつけ、リエルナがやってきた。

 倒れているルルを見ると、急いで駆け寄り状態を確認する。


「……大丈夫、まだ生きてる」


 リエルナは胸の前で手を組んだ。


「アルタジアの加護を……怪我回復(ハートレストア)!」


 ルルの傷が癒えていく。

 さすがに、これにはみんな驚いた。こんな大怪我まで治せるというのか、と。


「君は、一体……」


「……それより、怪我は治したけど弱ってるの。私でも、体力まで回復はできないの。安静にしてあげてほしいの」


「ああ、分かった……ありがとう」


 男は頭を下げると、急いでルルを寝かせられる場所を作った。


「サーネル教授……すまなかった」


 男は、眠るルルに向かって呟いた。






「お前たち…どうしてここに?」


 ロロの隣をすり抜けた2つの影、それはグレイとカルラだった。


「ルルが、リーベを止めてくれって。今回はロロだけじゃ無理かもしれないからって」


「兄貴が?……お見通しか」


 グレイとカルラは、リベランティスに向かって走り出した。


「グレイ、カルラ!俺の魔導式で動きは封じているが、どこまで抑えきれるか分からない。慎重にやってくれ!」


 カルラはリベランティスの前に立った。


「リーベ!カルラだ、分からないか?」


 カルラがリベランティスに呼びかける。リベランティスは少し戸惑ったようにも見えたが、意識は戻らない。ロロの魔導式で作った鎖が、今にもちぎれてしまいそうだ。


「カルラ!仕方ない、多少手荒でも止めるよ!」


「分かった!」


 グレイとカルラは、同時に跳び上がった。そのまま空中で一回転すると、リベランティスめがけて落下する。


「ごめん……リーベ」


 グレイとカルラの足蹴りが直撃した、はずだった。


「なっ!?」


 グレイとカルラの足は、リベランティスに掴まれている。リベランティスの鎖が──解けた。

 暴走状態のリベランティスは、掴んだ足を放り投げる。吹っ飛ばされた2人は、近くにあった木を蹴って着地した。


「2人とも、いったん下がるんだ!魔導式を組み直す!」


 ロロの呼びかけに、2人は首を横に振る。


「カルラ、もう一度だ!2人で取り押さえるぞ!」


「ああ、分かってる!」


 2人はリベランティスに再び飛びついた。何度もふっ飛ばされながら、ようやく腕をおさえる。右腕をグレイ、左腕をカルラがしっかりと掴む。


「リーベ、戻ってこい!」


「リーベ!みんな、待ってる。早く帰れ!」


 2人は必死に呼びかける。


「……リベランティス!みんなお前を助けたいんだ。応えてくれ!」


 ロロも叫んだ。


──リベランティスの動きが、少し鈍くなった気がする。



(……グレイ?それに……カルラにロロの声か?オレは……)


 リベランティスは、確かに3人の顔を捉えた。


「う……何で、ここに……ッ!まだ暴走してる……早くオレから離れろ!」


 意識は戻ったものの、まだ暴走は続いている。自分の意志では、どうにもならないようだ。


「お前を置いていけるか!みんなで……帰るんだ」


 グレイが強い口調で言った。


「オレが帰っても……傷つけるだけだ。いっそ、殺してもらった方が……」


パァン!


 乾いた音が響き渡る。驚いた鳥たちが、一斉に飛び立った。グレイとロロが、突然の出来事に目を丸くする。

 カルラの平手打ちがリベランティスの頬を直撃したのだった。


「カ、カルラ……?」


 リベランティスが頬をおさえながら驚いた顔をする。


「リーベ、一緒に帰る。暴走したら、カルラたち止める!だから、帰る。リーベ、優しい。いっぱい傷ついた……。カルラたち、いっぱい守ってもらった。今度はカルラたち、守る」


 カルラは必死に語りかける。リベランティスを平手打ちした手を握りしめながら。


「……今回は、俺たちでも止められるのか試したかったんだ。ロロにも少し頼っちゃったけど、いざとなったら俺とカルラでも止められる。止めてみせるから……」


 グレイもそう言った。

 2人とも、リベランティスに帰ってきてほしいのだ。そして、以前のように、また一緒に暮らしていきたい…そんな思いを抱いて。


 カルラの平手打ちで、リベランティスの暴走は完全に収まったようだ。リベランティスは考え込むようにしてうつむく。


「……ありがとう。でも、それはできない」


「リーベ、俺たちは……」


「気持ちでどうこうなるもんでもないだろ?……でも、少し気はラクになったぜ。一緒に暮らすのは、まだ無理だ。けど……マメに顔見せるようにはする。それなら、いいか?」


 3人はしばらく黙ったままだった。

 リベランティスは答えを待っている。


「それは、すぐに決めなくてもいいんじゃないか?これから、マクウェルたちと話し合って決めればいい」


 ロロが提案する。


「ロロ……そうだな」


 リベランティスは微笑んだ。





「シルゼン、あの一番右にある軍艦をまず壊そう!」


 一方そのころ、軍艦破壊に向かったアストルとシルゼンは海のすぐそばまできていた。

 シャンレルの時も見たことがあるが、何度見ても恐ろしい兵器だ。


「アストル王子は……」


「長いからアストルでいいよ」


「……アストルは、ここで隠れていてくれ。まずは俺が先に行く。俺が右端の軍艦を破壊したら、残りの軍艦を2人で叩く。いいな?」


 アストルは頷く。

 シルゼンが静かに忍び寄る。ギリギリまで近づくと、軍艦に跳び乗った。


疾風斬(しっぷうざん)!」


 シルゼンの斬撃が軍艦の大砲をすっぱり切り落とす。


「な、何者だ!?」


 軍艦の中が騒がしくなる。

 それを合図に、アストルも加勢した。


激流波(げきりゅうは)!」


 アストルの打ち出す拳から、凄まじい量の水が溢れ出す。それは、一気に2艘の軍艦を横倒しにした。慌てたサイモア兵たちが次々と外に出てくる。


「ここまでとは……」


 シルゼンは呆気にとられていた。


「シルゼン!この後、どうする!?」



「何……シルゼンだと?」


 アストルの声を聞いた女性と思われるサイモア兵が、海から陸に上がって言った。


「そこの者!今、シルゼンと言ったな?」


 アストルは急に話しかけられ戸惑う。


「え、何なんだ?一体、誰なん……」


 アストルが全部言い終わる前に、シルゼンがその女性に気がついて、目を丸くする。


「まさか……お前、イニス……なのか?」


 イニスと呼ばれた、まだ若く美しい女性は、シルゼンを見つけると激しく睨んだ。


「やはり、あなただったのですね。サイモアの軍人でありながら、どうしてサイモアを裏切ったのです、隊長!」


「シルゼン、知り合い?」


「ああ……俺の隊にいた者だ」


 イニスの方を見ながら、シルゼンはアストルに言う。


「アストル、ここは俺がやる。お前は、ヴァグラを追え」


「シルゼンひとりで!?」


「厄介だったのは軍艦だ。あれがすぐには使えないのなら、問題ない」


 シルゼンは大剣を握りなおした。

 アストルは迷いながらも、それに従いヴァグラを追う。


「お前たちの相手は俺だ。こい!」




 森の中をアストルは走る。その途中クローリアと合流した。


「クローリア、ヴァグラの居場所探すの手伝ってくれ!」


「アストル!?え、それじゃあシルゼンひとりで戦ってるの?」


「シルゼンの様子、見えるか?」


 クローリアは目を凝らす。


「……すごいよ、ひとりで全員相手にしてる」


「とりあえず、大丈夫そうだな。こっちも、急ごう!」




 マクエラからヴァグラが走っていった方角へ2人は向かった。


「ヴァグラのやつ……どこ行ったんだ?」


「私を捜しているのかな?」


 後ろから声がした。驚いて振り返ると、ヴァグラが木の枝に座ってこちらを見下ろしている。ヴァグラは、あの気味の悪いくらいいい笑顔でアストルたちの前に降り立った。


「ヴァグラ……お前は、6年前からずっとみんなを騙していたのか?」


「まぁ、そうなるのかな。通信機で情報を流して、頃合いを見計らって内部混乱でも起こそうかなと思ってただけだけどね。君たちがくるのはちょっと予定外だったけど、ザイラルシーク様はお喜びのようだよ?」


 そう言って、懐に隠し持っていた通信機をアストルに向けた。


「いやぁ、ルドの時にこれ一回壊れちゃってねぇ。直すの大変だったんだけど、君が来るまでに直せてよかったよ」


 スピーカーから、男の声が流れた。


──話すのは初めてだったかな?アストル王子。


「……誰だ?」


──君の父親を預かっている、と言えば分かるかな?


「ザイクか!?親父をどうした!答えろ!」


──ここに連れてきている。おい、お前の息子だ。何か言ってやれ。


「親父、そこにいるのか!?」


 しかし、スピーカーから返事はない。


──息子の心配か?……ゼロ。


 はい、とザイクとは違う男が返事をした。

 ドッと何かを蹴り飛ばす音。すると、聞き慣れた声がアストルの耳に届く。


──がはっ……


「親父!やめろ!」


──この通り、確かに預かっている。君もすぐに会えるさ。ヴァグラ、王子を連れてこい。


「了解しました、ザイラルシーク様。さぁ、そういうわけですから王子、一緒に行きましょう」


 ヴァグラが手を差し出す。

 アストルはその手をじっと見つめてから、右手を出す。


「アストル!?」


 クローリアが慌てて止めようとしたが、その前にバチン、という音が響いた。


「アストル……」


 アストルはヴァグラの手を叩いたのだった。


「俺は、自分で行く。クローリアと……みんなと一緒に。あの時、俺を逃がしてくれた親父だ。俺が今、お前と行くことは望んでいない!」


「従いませんか……まぁ、そうでしょうねぇ。分かりました、力ずくでいきましょう。楽しい戦闘の始まりですよ!」


 ヴァグラは喜びの表情で立ちはだかった。


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