内乱
──いつまで、俺たちが犠牲を払い続けなければならない?もう、うんざりだ……。
──リベランティスのいない、今が絶好の期だ。我々戦闘型が、頭脳型の上に立つ。
(あ~らら……やっぱりまずいことになってたっぽいな)
フェルムンドが6年前に制圧されたあたりから、騎士団内に不満の声が広まり始めていた。
仲間たちを──主に頭脳型を守るために犠牲になった戦闘型マクウェルたち。同じマクウェルでありながら、自分たちばかり戦わねばならない。次第に、頭脳型と戦闘型の距離は離れていった。
元々、持っている力が違うのだから、同じようにはいかないと分かってはいる。しかし、そう簡単に片付けられる問題ではない。
それに拍車をかけていたのが、マクエラの王族だ。
偶然でしかないのだが、リベランティスが生まれるまでマクエラの王族に戦闘型はひとりもいなかった。そのことが、戦闘型に知らず知らず劣等感を抱かせてしまったようだ。──戦闘型は所詮、頭脳型の手駒にすぎないのか、と。
もちろん王族たちにそんなつもりはない。しかし、少なからず悪影響を及ぼしていたのは間違いないだろう。
そんな時に産まれたリベランティスは、戦闘型にとって唯一の抑止力であり、彼の存在が救いになっていた。
──だが、それでも気持ちが収まらない者たちもいる。
主に、家族共々戦闘型などといったマクウェルたちだ。そういうマクウェルたちは、フェルムンドそしてルドで多くの身内を亡くした。父、母、兄弟……そして子供たち。その悲しみや──怒り。その矛先は、フェルムンドにサイモアを常駐させているのを黙っている王家に向いた。
そんな中、リベランティスがマクエラに住めなくなった。
リベランティスを尊敬していた戦闘型マクウェルの中には、リベランティスがこうなってしまったのは頭脳型のせいだとする過激派もいる。
「内乱を起こすなら、今しか……」
「なーんか、物騒な話してるみたいだな。オレがいない間、な~に企んでた?」
リベランティスは、こそこそ話していた戦闘型マクウェルの男2人に詰め寄った。
「なっ!?リ、リベランティス様……どうしてここに?」
男たちは驚きと焦りが入り混じった顔をして、リベランティスの反応を伺っている。
「いや……これは……」
「内乱……とか言ってたな。まぁた、馬鹿げたことを……。いいか?騎士団はあくまで志願制だ。嫌なら抜ければいい。だが、マクウェルを守るためにある騎士団で勝手なマネすんじゃねぇ」
リベランティスは低い声でそう言った。いつもの彼からは想像し難いだろう。
男たちは、一瞬怯んだように見えた。
しかし──
「……そんなこと分かってますよ。でもな、ほとんどの戦闘型が騎士団に入る中、自分だけ入らないなんてことできるか!?息子が……死んだ息子がそうだった。友達がみんな騎士団に入る。自分だけ入らないと、仲間外れになる……そう言っていた。そして、頭脳型を庇って……っ」
男は目に涙をうかべて、リベランティスを睨んだ。
「俺たち戦闘型だってマクウェルだ。力があるから命をかけなければならない?……違う、そうじゃない。だから、俺たちは変える」
「なに言って……」
「騎士団の管理は王家がしていた。頭脳型がね。まぁ、あなたは別でしたが。あなたも、我々に協力してはいただけませんか?」
もうひとりの男が笑った。
何かある──
「……遠慮しとくよ。ろくなことじゃなさそうだ」
「そうですか……残念です。──みんな、かかれ!」
「なっ!?」
どこから湧いて出てきたのか、戦闘型マクウェルたちがリベランティスに襲いかかった。
「あなたが帰ってきたことは、仲間が知らせてくれていました。焦る演技がばれないかとヒヤヒヤしていましてね。あなたの隙をつくのは大変ですから」
「ちっ、離せよ!」
振り払おうにも、もみくちゃにされて動けない。
なんとか目を開く。
──誰かが、頭脳型を連れて入ってきた。
リベランティスは、ぴたりと暴れるのをやめ、その連れてこられたマクウェルを見る。
「嘘だろ……?おい、父上をどうするつもりだ!?」
それは、リベランティスの父、マクエラ国王だった。首に鋭い爪を突きつけられている。
「離せ!父上、逃げてください!こいつらは、本気であなたを殺す気だ。お前ら……父上がなにをしたっていうんだ?ぶつけられない不満を押しつけてんじゃねぇ!」
「……リベランティス、いいのだ」
父王は落ち着き払っている。
すべてを受け入れたような顔で、リベランティスを見る。
「私ひとりが死ねば、他のマクウェルたちに手は出さないと約束した。戦闘型たちの気持ちに気づいてやれなかった……当然の罰だ。最後にこうしてお前にも会えた。後は、任せたぞ。」
──ドクン
「勝手なことを──」
──ドクン
「言ってんじゃねぇ……」
リベランティスは、自分の鼓動が速くなっていることに気がついた。
「そうだ、おまえら何やってる!!」
その時、突然カルラが現れた。何人もの戦闘型マクウェルたちを引き連れて。
「そうだぜ、みんな。一体どうしちまったんだよ……」
「陛下のせいだけではないでしょう!?」
騒ぎを聞きつけたのか、どんどん集まってくる。
アストルたちも駆けつけた。
「何の騒ぎ……って、リベランティス!?どうしたんだよ?」
アストルが目を丸くする。
「おやぁ……見つかってしまいましたか」
さっき笑っていた男が、これまたおもしろそうにニコニコ笑っている。
「あなたは、第四隊の──隊長ではないか!?」
声の主を見て、シルゼンが叫んだ。
ここまで書きたかったので、ちょっと急いで書きました。
騎士団の中にサイモアの人間が!?
次回、戦いに突入予定です。