フェルムンド奪還作戦
アストル、クローリア、リエルナの3名はマクエラで、シルゼンはリベランティス、ロロと共に野営をして一夜を明かした。
翌朝、マクエラにシルゼンがやってきた。それを見たカルラが、勢いよく研究室から飛び出し激しく責め立てる。
「お前……なぜここきた!?カルラ反対、言ったはずだ!」
「カルラ、よせ。俺が連れてきたんだ」
ロロがその後ろから顔を出す。
「サーネル教授の……どうしてだ?どうしてあなたまで、こいつ許す!」
「こいつ=サイモアじゃないだろう。俺は、サイモアを許すどうこうじゃなくて、こいつを信じた。こいつは確かにサイモアの人間だが、選んでそうしたわけじゃないだろう?サイモアの人間がみんな悪い奴ばかりじゃない。マクウェルが全員いい奴じゃないようにな」
「そのとーり。カルラ、こいつはフェルムンド奪還に協力してくれるって言ってんだ」
「リーベ……やっと帰ってきたのか」
リベランティスの姿を確認したカルラは、少し落ち着きを取り戻した。
「ロロに言われて仕方な~くな。ちょっと騎士団の様子を見にきただけだ。問題なければ、すぐ戻る」
リベランティスは、あまり乗り気ではない様子だ。
飛び出したカルラを追いかけるように、アストルたちも外に出てきた。
「カルラ、いきなり出ていくなんて……」
グレイはそう言いかけて言葉を切った。
「リーベ……おかえり」
リベランティスは、照れくさそうに頭をかく。
「おかえりって……昨日も会ったじゃねーの。……オレ、さっさと騎士団確認して戻るわ」
そそくさと、ろくに話もしないで去っていこうとするリベランティスをロロは呼び止め、強い口調で言った。
「リベランティス、国王陛下にはちゃんと会いに行くんだ。どれほど心配なさっていたか分からないぞ」
「はいはーい。じゃ、後のことはそっちで話すすめといて~」
リベランティスは振り返りもしないで返事をすると、研究所の奥へと消えていった。
「リベランティス、どこに行ったんだ?」
アストルが見えなくなった背中を目で追う。
「国王陛下は、この研究所の一番奥の部屋で研究なさっている。そして、地下には戦闘型マクウェルたちで結成された騎士団が集まる訓練場。あいつのことだ、先に訓練場だろうな」
ロロはアストルに答えると、今度は逆に質問を投げかけた。
「お前が、シャンレルの王子アストルで合ってるか?」
アストルは頷く。
「そうか……。おい兄貴、こいつから何か話は聞いたか?」
「ルル~、ロロは挨拶もなしルルか……。──昨日たっぷり聞かせてもらったルルよ。王子の特殊体質、シャンレルが制圧された話、そしてフェルムンド奪還を果たせたら、マクエラにサイモアを倒すため力を貸してほしいってこと……」
「兄貴たちも同じ話になってたんだな。俺たちも、昨日こいつから聞かせてもらった」
そう言ってシルゼンを目で指す。しかし、シルゼンはどこか別のところを見ているようだ。その視線の先にはカルラがいた。カルラは未だに睨み続けている。
「おい、カルラ……いいかげんにしろよ。お前がこいつをどう思うかは勝手だが、今は忘れろ。話が進まなくなるだろうが。これ以上、犠牲を出さないためだ。感情を抑えろ」
「お前が俺を恨むなら、それでも構わない。だが、一時協力させてほしい」
シルゼンは深く頭を下げた。
「……分かった」
カルラは顔を背けると、研究所の方へ消えてしまった。
気持ちの整理がつかないのだろう。
その点では、グレイは動じない。
「グレイといったか……お前は俺を憎んだりしないのか?」
グレイは目を閉じた。
「……サイモアのしたことを忘れたわけじゃないよ。でも、ロロの言った通りあなたがサイモアのすべてじゃないしね。俺の故郷を取り戻してくれるっていうんだから、何も言わないよ」
グレイはこの6年間で、自分なりに気持ちの整理をつけていたのかもしれない。カルラにも、きっとその時間が必要なんだ。今は、そっとしておこう。
「……さて、と。兄貴、フェルムンド奪還の作戦練るんだろ?だったら、早めにした方がいい。なぁ、兄貴?」
ルルは難しい顔で、小さくこくりと頷いた。何かある、そんな様子で。
昨日も言っていたが、マクエラで一体何が起こっているのだろうか?騎士団のことを、随分と気にしていたようだが。
シルゼンは考え込んだ。そんなシルゼンをよそに話は進む。
「アストルには、どのくらい力が使えるのか見せてもらいたいのだが……」
「ロロさん、アストルは力を狙われていて……へたに力を使うとサイモアに気づかれる可能性が……」
クローリアが心配して口を挟む。
「マクエラでは、魔導式の研究で強力な魔力が発生することも珍しくない。すぐに気づかれることはないだろう」
「念のため力の加減はするよ、クローリア」
「アストルにそんな器用なことできるかなぁ……。前にもそうやって……」
「あーあー、分かってるって!!」
いつものようにクローリアの小言を聞かされるアストル。
「2人とも、話続けるぞ。2人はとりあえず水竜を呼んで……そっちの女の子はどうするんだ?」
「私はみんなの傷を治すの」
「あっ、そうルル!まだ君に話を…」
「兄貴!落ち着いてくれ。まったく……おい、お前もちゃんと参加しろよ」
ひとり話の外にいたシルゼンをロロが呼ぶ。
「……ああ」
──マクウェル騎士団
戦闘型マクウェルたちの志願によって結成されたマクエラ防衛のための組織。その歴史は古く、初めは数名のマクウェルしかいない状態だったのだが、今ではほとんどすべての戦闘型マクウェルたちが所属している。グレイとカルラもその一員だ。そして、この騎士団の現・団長はほかでもない、リベランティスなのである。
元々は、純粋にマクウェルの仲間たちを守りたいという気持ちから始まった組織なのだが、近年それがおかしくなりつつある。
騎士団内に、密かに何か企んでいるやつらがいる──
リベランティスも、それに気がついていた。リベランティスがまだ騎士団にずっと目を光らせておけた頃は、それとなく妨害することもできたのだが、リベランティスがマクエラに戻れない状態になってしばらく経つ。リベランティスがいない間、騎士団はどうなってしまったのか?
「まずいことになってないといいんだけどな……」
リベランティスは地下への階段を下りていった。
しばらく暗い階段を下りていくと、なにやらひそひそ声が聞こえてきた。ひそひそ話したところで、耳のいいマクウェルには丸聞こえなのだが……。
リベランティスは、息を潜めて話の内容をうかがった。